第1話 王城と緊張と手
「……間近で見るとすげぇなほんと」
目の前の建造物に思わず息を吞んだ。
遠くからでも大きく見えてたけど、こうして近くで見るとスケールの違いに驚きを隠せない。
壁は磨き抜かれ、陽光を反射してきらめいている。何十メートルあるのか分からない塔が何本も天を突き、門の金装飾は細部まで芸術品みたいに繊細だ。
左右には整えられた庭園と噴水。ダメだ、俺の語彙力じゃこの凄さを言語化できないい凄味がある。
「どうですかヒスイ君。驚きましたか?」
隣でエリィが嬉しそうにしている。
さっきまで顔真っ赤にしていたのに、今はちゃんと切り替えて、誇らしげな王女の顔に戻っていた。
「誰だって驚くだろこれ。でもマジで凄いな」
正直に思ったことを伝えると、エリィはさらに嬉しそうに胸を張った。
「ふふっ、ありがとうございます。早速ですが行きましょうヒスイ君」
「おうわかった。緊張するなぁ」
ちょっとした会話を挟んでもなお緊張は未だに解けないでいる。こんなに心臓バックバクなの滅多にないぞ?
「大丈夫ですよヒスイ君、ほらリラックスリラックス」
ふわりと、エリィのドレスの裾が風に揺れる。
柔らかな金色の髪が光をすくい、ほんの少しだけ俺の手へ伸びるように揺れた。
「そんなに緊張しているなら、……て、手でも繋ぎますか?」
顔を真っ赤にして手を差し伸べるエリィ。
何このエリュシアとかいう可愛い生き物。
でも、恥ずかしくなったのか差し出した手を引っ込めようとしていた。
「な、な~んて、冗談、ですわ…」
その言葉を聞いた俺は、反射でエリィの手を掴んだ。
「ひゃっ!え、えっと、ヒ、ヒスイ君!?」
エリィは驚いていて、掴まれた手を見つめたまま固まってしまった。
「き、緊張がほぐれるかな~って思ってさ、せ、せっかくエリィが提案してくれたんだしさ」
言い訳するかのように呟いた俺。まあ本音は全く別だけど。
(エリィと手を繋ぐことなんて今後無いかもしれないしな。それに単純に俺が繋ぎたかっただけなんだけど)
もちろんそんな事は本人の目の前では言わない。言えるわけがない。
「……ヒスイ君の、ばか」
小さく、しかし耳まで赤く染めて呟くエリィ。
でも、手を振りほどかない。むしろ、指をぎゅっと絡めてくる。
「そ、そうですわよね…。き、緊張をほぐす為にも…ですね?」
「…うん、ありがとうなエリィ」
こうして俺達は手を繋いだまま、王城へと歩き出した。
…ちなみになんだけど、門番の兵士さんや、王城に入ってすれ違った執事さんやメイドさん全員にめちゃくちゃ温かい目で見られた。
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