あらっちゃったおひるね毛布
霜月あかり
あらっちゃったおひるね毛布
晴れた昼下がり。
保育園の園庭では、風にそよぐ洗濯物がゆらゆらと揺れていました。
おひるねの時間、ミオちゃんはお気に入りの毛布にくるまって、すやすや。
でも――その日はちょっと違いました。
朝から「おなかいたいの」と言っていたミオちゃん。
先生が気づいたときには、毛布の上に小さな“まるいしみ”ができていました。
「だいじょうぶよ、ミオちゃん。ちょっとおなかがびっくりしただけね」
先生はやさしく声をかけ、ミオちゃんを抱き上げます。
涙を浮かべたミオちゃんの手を、タオルでそっと包みました。
---
午後。
先生は洗濯場で、石けんをぎゅっぎゅっとこすりながら毛布を洗いました。
水の中で白い泡がふくらみ、太陽の光を受けてキラキラと光ります。
「ミオちゃんの毛布、きれいにしてあげようね」
となりでは年上の子、リョウくんが小さなブラシを持ってお手伝い。
「ぼくもやる! いっぱいあわあわにする!」
泡だらけの手を見て笑い合うふたりに、先生もつられて笑いました。
---
夕方。
風に吹かれて乾いた毛布は、まるで太陽の匂いをまとったみたい。
先生がミオちゃんに渡すと、ミオちゃんは小さな声で言いました。
「せんせい、ありがと。ごめんなさい、もうだいじょうぶ」
その顔には、昼間の不安なんてどこにもありません。
かわりに、あたたかくてやさしい笑顔がありました。
先生は毛布を広げながら、そっとつぶやきました。
「だいじなのは、こぼしたことよりも――ちゃんと“なおす”こと、だね」
---
その夜。
保育園の物干しざおには、月あかりを浴びた毛布がまだ一枚。
風に揺れながら、ふんわりと笑っているようでした。
まるで――きょうのやさしさを、そっと見守っているみたいに。
あらっちゃったおひるね毛布 霜月あかり @shimozuki_akari1121
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます