掛け違い
@tkyk792
掛け違い
「カップ麺、出来たぞーーー。」
「んー。」
休みの日、私は、扉を開け、顔だけ出しているそいつに返事をすると、ベットから起き上がった。
上は、パジャマの上だけ、下は、下だけの格好だが、今更なので、そのままそいつの前に歩いていく。
「ボタン、掛け違えてるぞ。」
見ると、確かにずれていて、胸元が見えているが、今更である。
「めんどくさいから、いいや。」
下がって、あけてくれているそいつの前を通って、そいつの前を歩いて、ダイニングへ。
テーブルにのせられたカップ麺を前に、いつもの席に座った。
カップ麺の蓋をべりべりと剥がす。
と。
「こいつは美味そうだ。」
私の心の叫びを、そいつが代弁した。
一緒に箸を持ち上げ、ズルズル、思わず、普通に食べたが、
「ねぇ。この前もカップ麵だったよね。」
そいつは、豆鉄砲を食らった鳩になった。
「何言ってんだ。前はカップラーメン、今日は、カップうどん、しかも、今日が発売日のコンビニ限定だぞ、朝早くから並んできたやつだぞ。」
サプライズのつもりか、なんとなく自慢げだ。
どうやら、朝早くから興奮して出ていった理由はそれらしい、まぁ、その程度だと思っていたが。
心配なんかしてないから、いいね。
ズルズル。
「おおお、いいな、これは、、、。」
こちらが答えないことを了承ととったのか、機嫌よく麺を口にして、感想か感嘆かをしゃべりだすそいつ、私は、朝飯が、またカップ麵なことは脇に置き、何も言わずに出ていったそいつに、ちょっと、攻撃したくなった。
「でもさぁ。これ、美容には良くないと思うんだけど。」
1人でブツブツのそいつは、次の一口を止めてこちらを見ると、小首を傾げた。
「んん。確かに、美容の為にはできてないな。でも、腹が減ったらそれ以前だぞ。」
ーこいつ!ー
言い返されたことに、ちょっと、ほんのちょっと、ムッ、と、する私。
と、、そいつは、顎に手をあてた。
「なぁ。もしかして、美容にいいやつ、つくったら売れるのか?」
気がつくと、私は、額に手がいっていた。
「売れるわけないでしょ。」
名案、と、輝いていたそいつは、私の一言で撃沈すると、
「ダメかーー。」
ぼやいた。
私は、ここぞとばかりに追撃してみる。
「第一、添加物、いっぱいなんでしょう。」
「科学の粋を集めて、美味しさを追求してるんだろ。」
ーのやろ!ー
「塩分過多!」
「ふん!保存食としては、たぶん、最高峰?だよな。うん、そんな感じだ!」
「「、、、。」」
私とそいつ、2人して、目を細くして暫く見つめ合ったよ。
「あのねぇ。、、、。」
「美味いだろ。」
ズルズル。
「それは否定しないけどさ。」
気勢をそがれた私は、思いっきり、息を吐き、もう一度、ズルズル。
もちろん、そいつもズルズル。
「なぁ。俺としては、この出汁の絶妙な具合がいいと思うんだよな、それとさぁ、、、。」
毎度の蘊蓄だか、感想だかを言い出したそいつに、適当に答えつつも、何故か私は、あつくなったふりをして、掛け違えているパジャマのボタンを一つだけ外した。
先にも言ったが、もちろん、着けてない。
朝、ちょっと気になって、寂しく思ったからじゃないぞ。
そんなこと思ってないぞ。
ボタンを掛け違えている為に、既に見えている胸元に、それなりにあるとは思っている谷間がハッキリとあらわになる。
が。
そいつ、全く気にしないで、蘊蓄垂れ流しながら、ズルズル、次にいってやがる。
ーおいっ!こらっ!今更とはいえ、サービスショット無視すんなっ!ー
「ねぇ。私、何であんたの彼女やってるのか、わからないんだけど。」
「愛があるからだろ。」
即答しやがった。
しかも、蘊蓄は区切ったけど、顔を上げることもしない。
ーサービスショット、見ろって!ー
私は、とりあえず、負けじと盛大にズルズルしてやる。
で。
「私はともかく、あんたからは、カップ麵愛しか見えないんだけど。」
「、、、。」
黙って、口の中があくのを待つそいつ。
そして。
「なに言ってんだ。世界で一番大事な姫に、自分の好きなものを理解してもらおうと努力するのは当たり前だろ。」
当然の如く、普通に言ってきた。
「あ、、、。」
ヤバい、何だか、めちゃくちゃ刺さったぞ、ヤバいぞ。
頭に血が上ってくるのが、はっきりわかる。
「ありがと。」
ーばか。何で礼なんて言ってるのよ。そりゃあ、世界で一番、、、、。とにかく、こいつは私のサービスショットを無視したんだぞ、そうそう、今更でも、サービスショットだぞ、機嫌が悪いんだぞ、私は、機嫌が悪いんだぞ、、、。たぶん。ー
そいつからどう見えているかは、わからないけど(真っ赤になりつつ、目尻が下がりきってますね。)、機嫌の悪さを心の中で繰り返すことで、微妙に落ち着く。
ー冷静に、冷静に。ー
ズルズル。
ーよし、大丈夫だ。ー
当然のことを言ったまで、と、普通にしているそいつは、食べるのをいったん止めて、感想をまとめているのか、腕を組んで何か言っている。
ピン、ときた。
「ねぇ。」
「なぁ、なぁ、これだけどさぁ、、、。」
「いいから。」
強引に、話を区切った私に、そいつは、機嫌を悪くする様子もなく、何だ?、と、表情で答える。
「私、世界で一番、、その、、なんでしょ、だったら、今日の夜は、当然、あんたの豪勢極まる手料理よね。」
「おいおい、俺がつくるのかよ。」
「当たり前!それに、あんたの方が、私よりも何倍も料理が上手いんだから!」
そうなのだ、こいつ、と、言うか、そいつ、普通にうまい店で出されるレベルの料理がつくれるのだ。
当然、私の胃袋は、言いようがないほど完全に、そいつにつかまれてしまっている。
「はいはい。じゃあ、これ食ったら買い物に行くかね。」
本当なら私の当番なのだが、特に文句もなく了承してくれるそいつ。
「ふん。」
ー勝った。ー
勢いをつけるために立ち上がっていた私は、大人しく椅子に座った。
まぁ、今回と、前と、その前と、その前もだったかな、どうでもいいか、カップ麵は私も好きだし、このぐらいでいいだろ。
正直、そいつがカップ麵が好きなのは、私にも多少?いや、全てにおいて責任があるような気がするから。
話そう。
私とそいつが一緒に生活を始めた時、お互い仕事があることから、いろいろと交代制にした。
食事をつくるのもその一つだ。
その時の私は、料理には多少自信があり、胃袋つかんでやるぜ!と、粋がっていたのに、初めてそいつがつくった食事を食べて飛んでしまい、墜落。
もちろん、墜落したものの、いろいろと上手くなるように頑張った。
そいつは、私のつくった食事を、文句もなく美味そうに食べてくれるし、大丈夫か?と、思ったぐらいだったが、、、。
差は、歴然で、詰まることはなかった。
そこで、追いつくのを諦めた私が考えたのが、だれがつくっても平等に美味しいカップ麵。
好きで、1人の時、よくつくって食べた。
狙ったのは、平等に美味しいところ。
私がつくっても美味しく、そいつがつくっても、平等に、私が劣等感を感じないくらいの差で、美味しい。
手始めに、お気に入りのカップ麵を、どどん、と、テーブルに置き、訝しい顔をするそいつに向かって、
「これ、美味しいよ。どうしても仕事が大変な時とかは、これにしようと思うの。いいわね。」
と、断言。
「お、おう。」
同意したため、先ずは、仕事が忙しい、と、私が積極的に食べさせ、慣れたら、そいつが忙しそうにしている時、料理をさせないように強引に、カップ麵にさせて。
そいつのつくる美味い食事が食べれなのは残念でたまらなかったが、ちょっと、ちょっとだからね、の劣等感と、カップ麵の美味さが邪魔をして続けていき、、、別に、料理以外の他で補えばいいじゃん!と、気が付いた時には、こうなっていた。
どう見ても、私が悪いよ。
別にいいけど、ちゃんと責任は、、、ごほん。
他にも、カップ麵が続いても気にならない厄介な理由がある。
今だ。
そいつが、嬉しそうにカップ麵を食べつつ、蘊蓄やら感想やらを垂れ流すのを適当にからかいつつ、同じカップ麵を食べている時。
その時。
その時だけは、誰でも平等に美味しいカップ麵は、私に、特別な美味しさを与えてくれる。
そう、特別な美味しさだ。
ズルズル。
「美味いな。」
「ん。そうだね。」
近いうちに、食事をつくるのは、全部任せる予定だ。
そうすれば、カップ麵をつくるのも含めて、そいつの手料理、食べたい放題。
ー完璧。ー
、、、そう言えば、私のサービスショットを見ながら、買い物優先しやがった。
くそう、ボタン、全部外せってことか!
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