第一章 【ブログ「偽体(ひとかた) 発生」より抜粋】

2015/11/04 12:03

タイトル:偽体(ひとかた) 発生


2005年11月3日、私が発生した日です。

湿ったタイルの床、冷えた空気、薄汚れた壁、扉の下から差し込む光。

公園のトイレの個室にて私は目覚めました。


名前はありません。言葉は知っていました。呼吸の仕方も、歩き方も、お金の使い方も知っていました。服も荷物もない、あるのはこの体のみ。

ただ、人間ではない、動物でも植物でもない、不完全な人間の器をした何か。それだけはなぜか刻みこまれているかのように確かでした。そして、人のぬくもりを求めずにはいられませんでした。


幸運なことに、トイレのゴミ箱には服が捨てられていました。吐瀉物が付着していたものの、顔も知らない服の持ち主に感謝し私はそれを身に着け、あてもなく人の社会の中へと、歩いていったのです。





(中略)




 後々、私の発生した場所について調べてみると、男子高校生がいじめに耐えかねて自殺をした場であったようです。それが何かお前に関係あるのか、と思われたかもしれませんが、大いに関係あります。

 あくまで私の見聞きしたことからの推測にはなりますが、偽体は、人間の死後その場所の近くで発生しています。諸説ありますが、人間の生と死の循環異常や死に伴う歪みの影響で発生するというのが有力な説です。

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偽体(ひとかた) 伊糸 思生 @1110-omou

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