第一章　悪役？令嬢婚約破棄殺人事件

　にわかに、パーティー会場内が騒がしくなった。

「――もう我慢できない！　婚約破棄だ！」

怒声と共に、ガラスの割れるような音が響き渡る。

正装した美形の男性が、青いドレスの女性を指さして、怒りで美しい顔を歪めている。

青いドレスの女性は、寂しそうな表情を浮かべ、正装の男性をそっと見返すだけで反論どころか声すら発しない。

とはいえ、これは『悪役令嬢の婚約破棄』の

シーンではなく、れっきとした現代、東京の

某ホテルにて、政界や経済会の著名人を集めたパーティーでの出来事だ。

「こんな公衆の面前でそんな事を言うなんて、貴方、非常識じゃあないですか？」

進み出て、青いドレスの女性にそっと寄り添ったのは、黒いスーツを着た背の高い、見惚れるほどのいい男ーーーかと思いきや、よくよく見るとかすかだが胸の膨らみがある。

もしかして、女性？。

彼らの廻りには物見高い連中の輪ができていて、これから何が起こるのかと、ワクワクしながら、熱い視線を三人に送っていた。

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