雨の終わりに君の雫

翠雨

序章

私たちは、特別なんかじゃない。


ただ生まれた時に、ほんの少し、余計なものを背負わされた──それだけの話だ。


この世界には、ごく稀に、特別な力「神通力」を持つ者が生まれる。人は彼らを「巫子ミコ」と呼んだ。


だが、その力は、祝福であると同時に、呪いでもあった。


力を持っただけで、誰かの運命は狂い始める。


まるで空から降り注ぐ雨のように、無責任な言葉や、心の濁りが、私たちの日常を侵食していく。


誰かを救うために力を使う者もいれば、欲望のままに破壊へ走る者もいる。


けれど、そのどちらであっても、世間はただ一言で括ってくる。


「異常」だと。


そしてその"異常"を取り締まるのが、私たち─神威カムイ


警察庁の特務部に属する、神通力犯罪専門の捜査課だ。


自分と同じものを持つ者たちを、追い、制圧する。


皮肉で、矛盾だらけで、割り切れるものなんてひとつもない。


でも、わかっている。


私たちがそれをしなければ、この街には誰も立てなくなる。


私は、力を使うたびに深い眠りに落ちる。それは、静かで穏やかなわたしを世界から遮断する時間。


雨は止むことなく降り続いていた。


遠くで、何かが始まる予感がする。


雨音に紛れて、警告にも似た、小さな予兆。


──また、誰かが動いた。


私は今日も、この濁った雨の中へ、足を踏み入れていく。


心に鍵をかけたまま、決して壊れないように。

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