第5話 本当の友達
「俺には夢があったんだ」
そう言って俺の隣に座る成田は話を始めた。
「野球部で甲子園に行くこと。その夢のためならどんな辛いことだって乗り越えようって思ってた」
城北高校の野球部は結構有名である。
甲子園に出場したことはないが、毎回、夏の甲子園予選では県でベスト4くらいには残っていると聞いたこともある。
公立高校でそれなりに偏差値も高いことから文武両道の面においても城北高校は有名である。
「正直今年は行けるって思ってたんだ。先輩はもちろん上手い人ばっかりだし、俺らの学年だって野球部創立以来の最強の学年だって言われててさ」
成田は目に少しの涙を浮かべながら続けた。
「でも、野球部辞めちまった。……あいつら俺が野球部を辞めないと野球部のやつらに酷いことするって言って。実際この間も部室の壁には落書きされてて」
「そんなの先生に言ったらなんとかならないのか? 」
俺は疑問に思ったことをそのまま口にした。
「もちろん言ったさ。先生もあいつらが犯人だってきっとわかってるんだろうけど、証拠がないと動けないって言われた。なによりこれ以上問題を大きくすると、今年の甲子園予選に出場できなくなるってさ……」
成田を見ると、唇を震わせながら大粒の涙が流れていた。
そんな成田を見ない振りして、次の言葉を待った。
「そんなのもう辞めるしかないじゃん。俺のせいでみんなの夢が壊されるなんてそんなの耐えられねえ」
「なんで成田のせいになるんだよ。そんなのどう考えても悪いのはあいつらだろ」
そんなの誰が見てもわかる。
成田だってわかっているのだろうが、なにもできない自分に情けなさを感じているのだろう。
成田は下を向きながら言葉を続けた。
「あの人は一個上の元野球部の先輩でさ」
あの人とはおそらくさっきのチャラい3人組のリーダー格の男のことだろう。
「去年の今頃はエースだったんだよ。でも俺がエースを奪ったんだ。すると先輩は野球部を辞めて、今では不良連中を連れて俺に仕返しを始めた」
そんなのただの逆恨みじゃねえか。
「学校でも教室まで来て呼び出されたり、授業をサボらされたりしているうちに友達もいなくなり、学校で俺に関わろうとする人はいなくなった」
俺は話を聞き終わると、怒りが込み上げてきて、強めな口調で言った。
すると、成田はそんな俺を見てから下手くそな笑顔を作ってから口を開けた。
「なんだよ、それ。おかしいだろ、友達なのに誰も助けようとはしなかったのかよ……」
「いやいや、あんな怖い不良みたいなやつが近くにいるって思われたら誰も近づけないって」
事情も聞かずに勝手に距離を取るような成田の友達に対して、俺は腹が立ってしょうがなかった。
そんな俺は成田の目をしっかりと見て大きな声で言葉を発した。
「成田、そんなやつら友達じゃねえよ。本当の友達ってのはな、楽しいと思える空間を共有し合えるだけじゃなくて、悲しい時に一緒になって悲しんで、そして助けられる。……そんな存在だろ」
それを聞いた成田は俺の方をぼーっと見つめて固まった。
固まった成田を見て、俺はなんか恥ずかしくなった。
「まあ、友達なんていないから知らんけど」と付け加えた。
「なんだよそれ。完全に友達いるやつの言葉だったろ」
成田は笑顔で言った。
そのあと俺達は完全に溶け切ったアイスを急いで食べた。
アイスを食べた俺は、先輩のところに戻ろうとする成田を少し強引に家まで帰した。
「また明日、学校で」
そう言って俺は成田と別れた。
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次の日。俺は、いつもより早めに登校した。
教室にはクラスの半分くらいの人しかまだ来ていなかった。
登校した俺は机に座り1時間目の準備をしていた。
すると部活の朝練を終えた神田がやってきた。
神田は席に座ると、タオルを首にかけ、ワイシャツの袖を捲りながら声をかけてきた。
「おはよ。今日暑くない? 」
急に話かけられた俺は、びっくりして反応が遅れた。
「お、おはよ。暑くはないだろ。まだ4月始まったばかりだし、なんなら寒いくらいなんだが」
「うそだ。もう暑すぎて溶けそうなんだけど」
「これで溶けるなら夏になったら、どうなっちゃうんだよ」
「んーっと、……消える」
「蒸発してんじゃねえか」
思わずツッコんでしまった。
俺のツッコミを聞いて、げらげらと笑い始めた。
「ナイスつっこみ」
「やめろ、なんか恥ずかしくなる」
神田が笑い続けていると、佐光がやってきた。
佐光も朝練をしていたらしく、体操着のまま教室に来ていた。
「おはよ。なんか2人とも楽しそうじゃん」
別に楽しくないよ……いやほんとに!
「あ、佐光おはよ。佐野のツッコミまじやばい、死ぬ」
そんなんで死んでもらっちゃ困る。俺殺人犯になっちゃうじゃん。
口に出して言おうか悩んだが、また笑われる気がしたのでやめておく。
俺は佐光の方を向き、口を開いた。
「おはよ」
「今日暑すぎねーか。溶けちゃうって、てか半分溶けてるまである」
「いやお前もか! 」
口に出してツッコまざるを得なかった。
そうして話していると、坊主頭が教室に入ってきてすぐにクラスメイト達に向かって大きい声で言葉を発した。
「おはよっ! 」
クラスメイト達は手を止めて成田の方を向くが、誰も返事をすることはなかった。
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