第2話 紹介
2年1組の担任の先生の名は
身長は低めで黒い髪を背中の半分くらいまで長く伸ばしている。
怒らせると怖い所もあるが、基本は適当で放任主義って感じの先生だ。
意外と生徒からの信頼も厚く、悩みなどを語る生徒も割と多いらしい。
去年も俺は安藤先生が担任だったが、あまり向こうから関わってくることはなく、俺としても当たりの先生だ。
ホームルームでは先生が今日のこの後の予定などを話した。
まあ、このあと体育館に移動して始業式を受けて今日は解散という流れだけなんだが。
一通りの流れを説明した後に先生は最後にと言って口を開いた。
「クラス委員を決めておく。やりたいやつは挙手してくれ。ちなみに推薦はなしな」
クラスのほとんどのやつは周りをキョロキョロして誰かが手を挙げるのを待っていた。
それを見た先生はため息をついて口を出した。
「誰もやる気がないようなので、くじ引きで決めるぞ、誰がなっても文句なしだからな」
そう言って先生が箱を取り出そうとした時、1人の女子が手を挙げて言った。
「先生。私がやりますよ」
その女子は先ほど佐光と話をしていたグループの中の1人の女子だった。
名前は
おそらくこの学年でその名前を知らないやつはいないだろう。
黒髪を腰くらいまで伸ばした彼女は、テストの校内順位ではいつも1位。顔も校内ではトップクラスに可愛く、それでいて陸上部に所属しておりスポーツもできる。おまけに人当たりも良い。
そんな彼女がクラス委員をやるのだ。反対できるやつなんて誰もいない。
去年もやっていたらしく、誰がどう見ても適任である。
なんなら周りからは「もっと早く挙げてくれればいいのに」だとか「やりたい人がいても平松さんがいるから、それを差し置いて手挙げれるわけないじゃん」なんて冗談めいた声も聞こえてくる。
俺はそんな雰囲気に嫌気がさした。
「平松良いのか? 別に無理してやらなくても良いんだぞ」
安藤先生がそう言うと平松は一瞬悲しそうな顔を見せたが、すぐ笑顔を見せて答えた。
「無理にやるわけではありませんよ。私がやるので早くホームルーム終わりにしてください」
それを聞いた安藤先生は小さくため息をついてから。
「じゃあクラス委員は平松にやってもらう。が、部活も忙しくなってくると思うので協力してやるように」
そう言ってホームルームが終わった。
最後の言葉の時に先生は俺の方を見て言ってきたような気もしたが、おそらく勘違いだろう。
俺に協力できるようなことなんて、せいぜい重い荷物持ちくらいだろう。バリバリの運動部の平松に限ってはその協力すらいらないのかもしれない。
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ホームルームが終わり、始業式が始まるまでの30分間は自由時間となった。
「始業式が始まるまでには体育館に集まること」と言って先生も教室を出て行った。
すると、真っ先に佐光が後ろを向いた。
「さっきの続き始めるか」
「おーい、茜」と遠くの席の平松を佐光が大きな声で呼んだ。
呼ばれた茜はすぐにこっちへ来て、俺の左の席に座る女子の隣に立った。
その俺の隣に座る女子が佐光と話していたグループのもう1人の女子。
彼女もこの学校の生徒ならだれでも知っている有名人だ。
赤色の髪をポニーテールにしている彼女は白い歯をにっこりと見せて、平松に向かい「クラス委員で困ったことがあったら頼ってよ。友達なんだし」なんて言っている。
小柄で元気いっぱいの笑顔を振りまいき、男女分け隔てなく仲良くできる彼女は女子の友達も多いが、男友達も多い印象である。
顔は少し幼く見えなくもないが、誰が見てもかわいい。
そんな美少女2人を見ていると、佐光グループの佐光ともう1人の男子が佐光の隣に来た。
朝、佐光と話していたグループの全員が揃うと、佐光は口を開いた。
「紹介するよ。このクールな感じ気取ってるこいつが
「その噂まだあるのかよ。1年の時しっかり否定したはずなんだけどな」
南ももちろん有名人である。
黒髪で誰が見てもイケメン。少しチャラい感じがしなくもないが、逆に若干のチャラさが人を寄せ付ける魅力になっているのかもしれない。
この学校の男子の中ではトップレベルにモテる。
「これから1年間よろしくな」
なんて言って俺にもしっかり挨拶してくる。
流石イケメン。眩しすぎるぜ。
俺も反射的に挨拶を返した。
「おう、よろしく」
すると今度は女子の紹介に入った。
「お待ちかねの美少女の紹介だ。先ほどクラス委員になったこの女神が平松茜。勉強もスポーツもできるみんなの憧れ。流石の藍人でも校内順位で名前くらい見たことあるだろ? 」
「ああ、知ってる。直接話したことはないが、有名人だからな」
「茜がいれば宿題も見せてもらえるし、1年間安泰だな」
佐光がそう口にすると、平松がやれやれと言いながら口を挟む。
「見せてあげるなんて一言も言ってないでしょ。まったく」
「私にはみせてくれるよね! 茜! 」
神田が会話に割り込んだ。
「なっちゃんにはみせてあげるね」
平松が神田の顔を見て笑顔で答えた。
「なんでだよ」なんて文句を言いながら、佐光は紹介を続けた。
「そんで最後にこの中学生みたいなのが神田夏。根っからのバスケ女子でバカ。友達としては面白いかもだけど、彼女にするならおすすめはしないぞ」
「ちょっと! 茜の紹介とは大違いな気がするんだけど」
先ほどまで席に座っていた神田だったが、立ち上がって佐光を睨みながら言った。
きっとこいつらみたいな関係を友達って言うのだろう。
どんな冗談を言っても許されるし、相手が傷つかないいじりを言い合える。
――きっと昔の俺だったらこの輪の中に入れたのかもな。
――きっとあいつと一緒になら。
そんなことを考えていると平松と神田が俺の顔を見た。
「クラス委員になった平松だよ。なにか困ったことがあったらなんでも言ってね」
「私は神田夏。よろしく。あんたもあのバカの友達やってるなんてかわいそうだね」
「おい、だからなんでだよ」とツッコミを入れる佐光を無視して、俺は挨拶を返した。
「佐野藍人だ。1年間よろしくな。あと、佐光とは断じて友達なんかじゃないから」
「お前もか! 」とまたもや鋭いツッコミを佐光が入れると、俺以外のやつらは大笑いしていた。
そんな佐光達を見て、俺は少しの懐かしさと寂しさを覚えた。
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