第1話 新クラス
8時24分。
俺はスマホで時刻を確認して、満開の桜に囲まれた校門を通過する。
普段なら俺と同じようにこの時間に登校してくる生徒がいるのだが、今日は一人も見当たらない。
当たり前だ。今日は始業式。
1年生は2年生に、2年生は3年生に進級し、新しい仲間たちとの希望を胸にして登校する特別な日なのだから。
おそらく俺が登校する30分前にはそんな希望を胸に一杯にしたやつらが、登校して下駄箱前に張り出された新しいクラス表の前でわいわいやっていたのだろう。
誰もいないのに桜が舞い散って寂しくも騒がしくも思える校庭を見ながら、下駄箱前まで歩いた。
下駄箱前に張り出されたクラス表を見て、自分の名前を探した。
1組から順番に探そうと、確認していたらすぐ自分の名前を発見できた。
5番
普通は自分だけではなく、1年の頃仲良かった友達や好きな子のクラスも確認するものだと思うが、俺は一切友達や彼女といったことに興味がなかったため2年1組の教室へまっすぐ向かった。
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2年1組の教室はとても賑わっていた。
ほとんどの人たちが席を立ち、いくつかのグループに別れて談笑をしていた。
「今年も同じクラスだね! よろしく!」
1年の時から仲良かったやつと同じクラスになれて喜んでいる人。
「初めまして。私〇〇だよ。これから1年間よろしくね」
初めて同じクラスになった人同士の会話など、1学期の始業式ならではの会話が聞こえてきた。
そんな素晴らしい青春を送るであろうクラスメイト達を横目に自分の席を確認して席に座った。
俺の前の席では男子2人女子2人といかにもこのクラスのカーストトップみたなやつらが楽しそうにしゃべっていた。
その中の席に座っていた男子から声をかけられた。
「おっす、藍人。今年も同じクラスだな。よろしく」
この気安く話しかけてきた男子は
1年の頃からサッカー部のエースで顔は普通にイケメン。
少しチャラそうな感じもあって、THE サッカー部って感じである。
1年の時から同じクラスで入学当初から席替えするまでは俺の前の席だった。
前の席なこともあってか1年の時からやけに喋りかけてくる。
俺は少しだけこいつが苦手だ。
やけに喋りかけてくる所もだが、俺が苦手な理由は俺の中学時代を知っているということの方が強いだろう。
「おう、よろしく。佐光」
俺はとりあえずの返事をしておいた。
別に友達を作る気はないが、誰とも喋らないつもりもない。話しかけられれば、喋るし、嫌いになってもらおうというつもりもない。
ただ浅い関係で、形だけでも知人程度になっておけば不自由なく学校生活を送ることができる。
友達がいなくても楽しい学校生活が送れるかと聞かれたら、とてもYESとは答えることはできないが不自由なく生活できることを俺は知っている。
1年の俺がそれを証明して見せた。
だから俺は去年と同じように何も中身のない、なにも失うことのない1年を送ることができるだけで十分なのである。
「歩夢でいいって何回言えばいいんだよ、まったく」
苦笑いを浮かべてそんなことを言ってきた。
名前で呼ぶつもりはないって何回言えばいいんだよ、こいつは。
「そもそも俺は名前で呼んでいいって言った記憶はないんだが」
「おいおい、名前で呼ぶのに許可なんていらないだろ」
佐光が食い気味に言い返してきたが、言いたいことはわかる。
友達だったら、名前で呼ばれることをわざわざ拒否する人はいないだろう。
だが、俺は佐光とは友達ではない。そんな深い関係ではなく、ただ同じクラスで会ったら、ほんの少しだけ挨拶程度の話だけする、その程度の浅い関係なのだ。
このまま話を続けてもキリがないので俺は、話を切り上げることにした。
「はいはい、わかったよ。また1年よろしく頼む」
そう言って顔を伏せて寝る準備をしようとする俺に向かって、佐光が言った。
「待てって、まだこいつらの紹介終わってねえよ」
こいつら。机に伏せている顔を上げなくても誰のことかわかる。
おそらく先ほど佐光と話していた佐光以外の3人のことだろう。
別に紹介なんて俺にする必要ないのに。
それに名前くらい1年間友達を作らなかった俺でさえ知っている。
それくらい有名な3人だ。
実際佐光もこの学校の中じゃちょっとした有名人なので佐光を入れて、4人だな。
さすがに伏せたままじゃ失礼なので、顔を上げた。
「まずこのクールな感じ気取ってる男が 」
「おーい、新学年で浮かれるのもわかるけど1回席座れー」
佐光が1人目の紹介をしている途中で先生が教室に入ってきた。
すると佐光は紹介を中断して文句を言ってきた。
「もう藍人が来るのが遅いせいで、紹介できなかったじゃねえか」
「そりゃ、悪かったな。また今度」
「じゃあ、またホームルーム終わったら紹介するから」
俺は社交辞令でまた今度と付けたのだが、悲しいことに佐光には理解してもらえなかった。
このままホームルームが終わらなければいいのに。
そんなことを少しだけ思いながら、先生の話を聞いていた。
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