間章3
「はじめまして。米村と言います。あなたの後輩にあたるものです。今、あのアパートの一階に住んでいますが、船戸亜沙美さんの事件のことを聞きたくて」
「お前に関係ないだろ、あの話はもうしたくないんだよ」
「アパートに亜沙美さんの霊が出て正直困っているんですよ。あなたが原因の一端ではないかと思っていて、何とかしてほしいんですよね」
「おれには、何もできないぞ」
「そうですか。でも今、専門家も入って調査してもらってますから、うまくいけば、亜沙美さんの霊を祓うことができるかもしれませんよ」
「そうなのか」
「はい。しかし、そのためには、亜沙美さんの霊のことを知らなければならない。本来、亜沙美さんの霊は刑務所の強盗か、またはあなたのところに出てもおかしくないと思うんですよね。アパートに住んでいたとき、やっぱり亜沙美さんの霊が出てたんですか」
「ああ。事件の後、周りが俺のことを非難して。亜沙美が死んだのは俺のせいだって責められてた。一ヶ月くらいして、夜中に、誰かが訪問するようになって、扉の外には亜沙美の姿があったんだ。部屋に入れてほしいんだってわかった。最初は一週間おきくらいだった。あいつは死んだのに、隣の部屋から毎日、俺の部屋を訪れるようになった。」
「もちろん、入れなかったんですね」
「当たり前だろ。それですぐ引っ越すことにした。何度か引っ越したけど、ついて来るんだよ。暫くすると、あいつが現れる。結局、もう大学にも居づらくなって実家に戻ってきたんだが……」
「だが?」
「家でも来るんだよ。あいつが」
「あいつとは、亜沙美さんですか」
「そうだよ。実家に戻ってしばらくは平和だった。半年ぐらいかな。でも、ある日突然手紙が届いたんだ。あの三階の婆さんからだよ。『お恨み申し上げる。せめて、亜沙美に謝って供養してくれないか』みたいな、そんな手紙だ。もちろん無視したぜ。それからだ。俺の部屋を、またあいつが訪れるようになった」
「それは毎日ですか」
「毎日じゃないが、何日も続くこともあれば、急に途切れて現れないこともある」
「部屋には入れていないわけですね」
「当たり前だろ」
「御家族の方は知っているんですか」
「半信半疑ってとこだな。医者に連れて行かれた後は、霊能者みたいな奴も呼んでくれたから、おれが何か見えてるってことは理解してくれてるけど、俺が罪の意識に苛まれてると思ってるのかもしれない」
「なるほど。実際のところ、罪の意識ってやつ、感じてます?」
「俺は悪くないよ。強盗が刺したのが悪い……いやわかってるよ。本当は亜沙美を助けられたんじゃないかって言うんだろ。亜沙美も運が悪かった。扉をちょっと開けたら刃物を持った男がいて、あの状況じゃ助けようがなかったんだよ」
「思うんですけど、試しに、亜沙美さんを受け入れてみてはどうなんでしょう。そうしたら、何か変わりませんか」
「お前、本気で言ってるんだよな。やるわけないだろう」
「しかし、ずっとこのままでいいんですかね」
「もう一生このままなのかな……お前らの調査でなんとかしてくれよ。あいつがこなくなるようにしてくれよ」
「では、もう少し調べてみます。また連絡します」
「おい、待てって」
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