Day7-6 幼馴染を救うためだったら

御影家を発ったあと。


時間にしておおよそ17時頃⋯⋯俺は八雲神社の前に来ていた。


瀬高に殴られたあの日以降、近寄る気にもなれなかった場所だが、またしても今ここへ訪れようとしている。


⋯⋯内心、ここに来たら身が震えてしまうんじゃないかとも思っていたが、案外平気なことに気がつく。

きっと今に至るまでに、こんな俺のことを支えてくれた人達の存在のお陰だろう。でなければここに立っている事すら叶っていないのだから。



そうボンヤリと考えていると、遠方から自転車を走らせるような音が聞こえてきた。


「おまたせ〜、待たせちゃったかな?」


やってきたのはリコちゃん先生だ。

この後に行う『相談』に、部活動顧問として同伴してくれるとのこと。やはり大人がいるかいないかで物事の真剣度が変わってくるからね。


「いえ、大丈夫です。それよりここに来るまで結構距離ありませんでしたか?」

「大丈夫大丈夫。私、登山経験者だから。足腰には自信あるのよ〜」


測ったことはないがおおよそ自転車で30分くらいは余裕でかかる距離はあるはず。となると授業が終わってすぐに駆けつけてくれたことになる⋯⋯本当にありがたい限りだ。




ということで、早速石段を登って境内へ。

自転車を持ち込むことは叶わないので、えっちらおっちら階段を登らなくてはならない。


俺はもう慣れたものだが、リコちゃん先生は自転車をかっ飛ばして来てくれたのもあり、既に疲労困憊な様子であった。登山経験者じゃなかったんですかね⋯⋯?


「私は途中までロープウェイを使う派だから⋯⋯」


まるで言い訳をするかのようにボヤいていたが、敢えて聞かなかったことにしておこう。追及したら可哀想だし。



そうして登った先に、すべてが始まった因縁の地──『八雲神社』の本殿が見えてきた。


木々に囲まれて、まるで自然の中にポツンと建っているかのような立地に、それは存在する。

夕方頃で辺りが暗いことも相まって不気味な感じも一層感じる。夏前だというのに、心なしか肌寒さを覚える。


「ひぃ⋯⋯ひぃ⋯⋯神主さんを待たせたら悪いから、先に進んでてもらえる⋯⋯?」


背後で悲鳴をあげているリコちゃん先生を一瞥すると、階段を登った先にあるベンチに座っていた。

⋯⋯うん、来てくれているだけありがたいのだ。過度に期待する方が良くないよな。



◇  ◇  ◇  ◇  ◇



リコちゃん先生と別れて、先に本殿の方へと向かうことに。

「あとで追いつくから⋯⋯!」と言っていたから、おそらく問題ないだろう。



「しかし夜になると本当に不気味だよな、ここ」


暗くなるまで八雲神社に滞在することは滅多にないが⋯⋯瀬高に殴られたあの時は、目が覚めたら辺りが真っ暗になっていて驚いたな。


それにしてもわざわざこんなところに呼び出すなんて────。




「────待っていたよ」


本殿の前に、目的の人物がいた。

八雲神社の神主⋯⋯斎宮マコトさんがそこにいた。


白い和装束に袖を通しており、頭には仰々しい

烏帽子を付けている。確か神様と会った時も同じような格好をしていたから、おそらく正装のようなものなのだろう。


「昨日お会いしたばかりなのに、急な申し出となって申し訳ありません」

「いや、構わないよ。君にはまた会うような気がしていたからね」


⋯⋯確かに昨日、文化財センターで八雲神社のことを色々と訊ねた際には、随分と喜んで対応してくれているように見えた。

そうしているのも全てアカネのため。心から八雲神社に関心があって聞いているわけではないのだが⋯⋯。




「御影アカネ」


神主さんの口から出るはずのない単語が聞こえた。

あまりにも脈絡のない唐突な発言に、思わず一歩後ずさって身構える。


気が付けば、辺りの空気が一段と重くなるのを感じた。

呼吸が浅くなっていくのを感じる⋯⋯驚きと緊張のあまり、心臓はこれ以上なく脈動しているのに、取り込む酸素が圧倒的に足りていない。


「なん⋯⋯」


返事をしようにも声がうまく出ない。

身体に力が籠もらないようだ。



「あぁ、無理しない方が良い。一般人は敷地内に入ることすら難しいのだから。それに対して君は鳥居を潜ってここまでやってきた。流石という他ない」

「⋯⋯ッ!」

「君は普段からここに来ていたようだが、それがどれだけ難しいことか分かっただろう。八雲神社とは『そういう』場所なのだよ」


あの時、文化財センターで神主さんが言っていた。

八雲の地は、天に近い場所を示していると。


すなわちここは──人の世にして最も天に近い場所。



「⋯⋯別に意地悪がしたくてこうしているわけではないのだ。今現在も刻々と、そして急速にこの地が侵略されている。それを護るべく顕現せざるをえなかったのだよ」

「隠すつもりは⋯⋯ないみたいですね」

「無論」


今自分の目の前にいるのは、八雲文化財センターで会った『神主さん』じゃない。


「あなたの名前は『八咫鏡』⋯⋯またはそれに属する神様なんだろう?」


そう問いかけると──目の前にいた神主、もとい『あの日あの時に出会ったオッサン』はニヤリと笑みを浮かべた。



「いかにも⋯⋯ワシの名前は八咫鏡。伊勢の地にて砕かれた破片の一部にして、それそのものなり」




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ステータスを覗いたら、幼馴染が『催眠状態』に掛かっていたんだが!? 助けるために俺、巫女やります! しろいの/一番搾り @mjp_red5

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