Day5-7 方針と理解と…

「⋯⋯って、なんで秤谷先生が!?!?」


しれっと混じっていて気が付いていなかったけど、なんか知らぬ間にグループ入りしているんだけど!?


「なにっ、今頃気がついたのか!?」

「あまりにも自然にいるからビックリした⋯⋯」


あまりにも『最初から事情知ってました』感でいるものだから、気が付くのに遅れたといいますか。

なんかこう、とても心臓に悪い。



「ごめんね鏡宮くん。なかなか部室から戻ってこないから、立ち話ついでにちょっと⋯⋯ね」

「まぁ良いですけど。ということはカードの存在についても?」


すると秤谷先生も、ついでに母さん’sも首を縦に振って肯定した。


「鏡宮さえ良ければ、試しに僕に使ってみてくれないか。それを以って信用するとしよう」


⋯⋯それじゃあ、遠慮なく。



────────────────

名称:秤谷 セイジ


種族:人間


攻撃力:1000

守備力:1500



八雲高校に勤める科学(物理)教師。26歳。


現在はテニス部の顧問をしているが、本人は大学生まで剣道をやり続けていた。テニスラケットと竹刀の握り方の違いに困惑しながらも現在勉強中。


八雲高校が母校であり、剣道部のOBとしては最近の動向が気になるものの、出しゃばるのは良くないと自制するという葛藤に苛まれている。


────────────────



「ほぉ~、こんな風に出てくるのか。個人情報と言えど無害なもので安心したよ」


出力した内容を皆に見せると、皆感心したように食い入るように見ていた。

その中でも秤谷先生本人も十分驚いているようで、内容にも間違いがないことに御満悦の様子だった


「というか、セイジ先生って剣道部だったんですね!」

「いやぁ、もう離れて何年も経ちますけどね」

「なんか強そうじゃないですか。メーン!って!」


何かが琴線に触れたのか、少し興奮気味に素振りのような真似事をするリコちゃん。

⋯⋯背が小さいのもあってか、まるでごっこ遊びをする小学生のようだ。



対する小南先輩は別の内容が気になるようで、コッソリと耳打ちしてきた。


「普段は気にしていないパラメーターだから無視していたが、秤谷先生の攻撃力⋯⋯エゲツナイな」

「ですね。あの瀬高でさえ300だったことを加味すると、凄く強いってことになるんですかね」

「無意味なパラメーターではないだろうしな。もし瀬高と対峙する可能性があるのであれば、参考にする価値はあるだろう」


確かになぁ⋯⋯。良く見ると秤谷先生ってガタイがそこそこ良いし、結構精悍な顔立ちだし。なんかこう、強そうではある。


とはいえこの人は原賀と違って、理不尽に暴力を振るうようなことはないだろうから、その点では安心材料としてだけ捉えておくべきだろう。


「⋯⋯というか、なんでコソコソ話で伝えて来てるんですか」

「攻撃力比較って、なんか男子小学生みたいだろう? 私にだって乙女の恥じらいくらいはある」


乙女⋯⋯?


────その次の瞬間、ケリが飛んできた。痛い!




そんな光景とは関係なく、母さん’sもアストラルカードを見て納得してくれた様子であった。


「ホントだ凄い⋯⋯。トウマ、家に帰ったら確認して欲しいことがあるんだけど」

「あ、あぁ。うん。分かったよ」


多分父さんが追ってるアイドルについてだな⋯⋯。

その隠し場所まで既に知っているが、ここで敢えて言う必要は無いだろう。南無。


「良かったら、またアカネを觀てあげてね。きっと喜ぶわ」


それはどうだろう⋯⋯。

少なくとも意中でない男性に、心の内を読まれるのは嫌がられるのではないだろうか?



◇  ◇  ◇  ◇  ◇



「────まぁ、ともかくだ。これでここにいる皆様は、トウマ君の能力と、私達が置かれている状況を把握してもらえたということでよろしいだろうか?」


立ち話を続けるのも何だからと、小南先輩が音頭を取る。


「今後の方針についてだが⋯⋯。まずトウマ君はしばらく登校しないほうが良いだろう。今日はなんとか切り抜けられたが、明日はどうなることか分からない」


確かにそれは至極真当な考えだ。

⋯⋯決して学校を休めるチャンスだとは考えてないよ。ホントだよ?



「セイジ先生、こういう時って特別措置が取れたりするんですか?」

「本人と保護者の確認さえとれれば、名簿上は欠席扱いになるが、内申点や進級単位に影響が出ないよう取り計らう事はできますね」


それを聞いて母さんも了承する。

⋯⋯個人的には学校でアストラルカードを使うべきなのではとも考えなくもないが、背に腹は代えられないか。


「あのっ、うちのアカネは⋯⋯」

「御影アカネさんに関しても同様の措置が取れるか、こちらの方で検討します。状況が状況なので、もしかしたら後日精神科への受診を求めることになるかも知れませんが、その点に関しては御了承ください」


それを聞いてアカネの母さんも、ホッとしたように胸を撫で下ろした。

⋯⋯というか、本当にこのタイミングで来れて良かったね。




「トウマ君がいない以上、学校内で自由に動けるのは私と萩野後輩のみ。色々と聞いて回ることになりそうだから、萩野後輩は覚悟しておくように」

「あっ、はい。連れ回されることは確定なんですね⋯⋯」


早速、容赦なくこき使ってるなぁ。

とはいえ、小南先輩ひとりで動くとなると、どこまでも突き進んでしまいそうだから、丁度良いストッパーになるのかもしれない。



「秤谷先生はさっきの欠席交渉と、あとはクラス内でのトウマ君の評判について情報収集をお願いします」

「分かった。可能な限り動くよ」


「リコちゃんは原賀にクソほど睨まれてそうだから、あまり動かないほうが良いかも。もし可能そうなら調べてほしいことがあるんだけど⋯⋯まぁ、隙を見て相談するよ」

「あはは⋯⋯そうかも。私も学校休んじゃおうかな〜?」


リコちゃんは助けを求めるようにチラリと秤谷先生の方を見るが、無慈悲にも「欠勤扱いです」と言われてしまった。ちょっとかわいそう。




「最後に、瀬高達への対処だが⋯⋯現状は何もできないお手上げ状態だ。『次の女生徒』が標的になるのを待つしかない、とさえ言えなくもない」

「それなんだよなぁ。なんというか、催眠術を封じる方法でもあればなぁ⋯⋯」


そんな不思議な力があれば、こんなことにはなっていないだろって?

それを言ったらおしまいだ。そんな不可思議な力がこの世に存在するわけ⋯⋯。



「⋯⋯ん? もしかしてこのアストラルカードって超常現象?」

「何を今更。その力も催眠術と同じくらい頓痴気なものだぞ」

「そしたらこの力を与えた人物って⋯⋯」

「君が『神様から貰った』って言っていただろう?」



「「 神様に相談するのが一番手っ取り早いのでは? 」」



期せずして、俺と小南先輩、2人の声が重なってしまう。

そうだ、そうだそうだそうだ。そもそもこの理不尽は、あのオッサンに出会ってから始まったんだ!!


「だが確か、儀式をしないと会えないんだろう?」

「去り際にそんな事を言ってたな。その時は興味なかったから詳しくは聞かなかったけど⋯⋯」


⋯⋯⋯⋯周囲から物凄い目つきで睨まれているような気がする。だって仕方ないじゃないか。その時は夢の中だと思っていたんだから!


「⋯⋯トウマ君。君は儀式について調べておいて欲しい。平日の昼間であれば外を出歩いても問題ないだろうし。職質だけはされないように」

「うす⋯⋯」


⋯⋯ クソッ、ちゃんと聞いておけば良かった!



「お母様方は御子息御息女をみていて頂けたらと。よろしくお願いします」

「えぇ、分かったわ」

「アカネのことも心配しないでね」



こうして、皆が明日からやることが決まった。


皆がどこか揚々とした気持ちで談笑している様子を、ふとどこか遠巻きに見てしまう。


自分のためにこうして集まってくれた⋯⋯と思うのは些か自惚れが過ぎるかもしれないが、心が温かくなるのを感じずにはいられない。


もしかしたら意外と好かれやすい人間だったりして⋯⋯。



(⋯⋯あれ。なんでだ)


ズキリと、胸が痛む感覚がした。

俺自身に魅力がないのは、俺が良く知っている。


そんな状況を⋯⋯俺は良く知っている。


『⋯⋯ん? もしかしてこのアストラルカードって超常現象?』


先ほど口にした言葉が、脳内で反芻する。


反芻すればするほど⋯⋯。

⋯⋯目の前に広がる光景が、歪なものに見えた。

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