Day5-3 一斉催眠

午後は平穏無事に授業を受けられたが、相変わらず周囲からの好奇の視線が止まらない。


居心地の悪さから、思わずチラ見してくる人に愛想笑いを返してしまうが、まるで化物をみたかのように急いで顔を逸らされた。


昨日よりも大分悪化していないか⋯⋯?

うーん⋯⋯高校生活、終わったかもしれない。




そうしてようやく迎えた放課後。


昨日までは話し掛けてくれていた、前の座席の男子生徒でさえ、こちらを見ることなく足早に去っていった。


うーん⋯⋯流石にこれは、どうなんだ?

確かに3時間も拘束されてはいたが、そこまで忌避感を持つものなのか?


不可抗力というものなのか。

この雰囲気は甘んじて受け入れるしかないのだろうか。



「ちょっと」


だけど入学して2ヶ月目にしてコレは流石に⋯⋯応えるなぁ。泣いちゃうぞ。


「聞こえてないの?」


うーん、本格的にオカ研の部室が避難場所になるかもしれないな。小南先輩のことを笑えなくなってきたぞ⋯⋯。



「────きーこーえーて! なーいーの!?」

「ぅわっ!!」


突然大声で話しかけられ、思わずその場で飛び上がってしまう。


「びっくりした⋯⋯。突然話しかけないでくれよ」

「突然じゃないわ! 何度も話し掛けたのに聞こえてなかったのはアナタでしょ!!」

「おぉ⋯⋯そうだったのか。ゴメンゴメン」



いきなり声を掛けて驚かせてきたのは、隣のクラスにいるアカネの友達──萩野ユウカだ。


彼女は小学生の頃からアカネと友人関係を続けている、そしてアカネと俺が幼馴染であることを知る数少ない人物である。


なんで数少ないのかって?

そりゃアカネが幼馴染であることを公表するのを嫌がったからだよ。文句あんのか。



「ねぇ。トウマがアカネを襲ったって本当?」



「Ha?」

は?


一瞬、脳が理解を拒んだ。


彼女の言っている意味が分からず、頭の中がショートして──ユウカの目の前であることを気にせずアストラルカードを取り出した。


「ちょっ、なんで学校にカードなんて持ち込んでるのよ!」



────────────────

名称:萩野 ユウカ


1年2組。

八雲高等学校に通う女学生。クラス委員。


御影アカネとは小学生の頃から友達であり、様々なことを相談し合う仲。特に恋バナで盛り上がることが多い。

アカネが選んだ好きな人なら、例えどんな変な人でも信じる覚悟を最近決めた。


────────────────



「⋯⋯ッ!!」

くそっ、こんなところでも刺されるなんて⋯⋯。


しかしまだだ。取り出しついでに、まだクラスに残っている生徒へとアストラルカードを向けてみた。


「ひっ!?」

「やだっ!」

「怖いっ!」


カードを向けただけで怖がらないでくれよ⋯⋯。



────────────────

名称:只野 リンコ


ステータス:

催眠状態 【魅了(弱)】【恐怖】


1年3組。

八雲高等学校に通う女学生。

背の高い人が好き


────────────────


────────────────

名称:水田 マイ


ステータス:

催眠状態 【魅了(弱)】【恐怖】


1年3組。

八雲高等学校に通う女学生。

背の高い人が好き


────────────────


────────────────

名称:高橋 リョウコ


ステータス:

催眠状態 【魅了(弱)】【恐怖】


1年3組。

八雲高等学校に通う女学生。

背の高い人が好き


────────────────




「おいおいおいおい、なんだこれは⋯⋯」


ユウカはともかく、クラスメイトが全員、催眠状態に掛かっている⋯⋯?

しかもフレーバーテキストのところが、不気味なまでに同じ文字が書かれていた。


これは⋯⋯もしや。


「瀬高が、昼休みの時に来たのか?」

「え、えぇ⋯⋯。サッカー部のメンバーを連れて『俺のアカネが襲われた』って演説しだしたらしいの」

「⋯⋯なるほど」


仮に瀬高の能力が『催眠術』であると仮定して。

それを出し惜しみなく、不特定多数に使い始めた⋯⋯ってことか!?



「ね、ねぇ。なんか空気悪くない⋯⋯?」

「良い訳ないだろ⋯⋯ここは針のむしろだ」


なんてこった。ここのクラスメイト全員が、俺がアカネを襲ったと信じて疑わない奴らだったってことか⋯⋯?


そんな中で午後の時間を呑気に過ごしていた訳か。随分と間抜けなヤツだなソイツは!



「⋯⋯ユウカ。俺と瀬高、どっちを信じられる?」


短くそう問うと、迷うことなく。


「アカネの幼馴染を信じる」



◇  ◇  ◇  ◇  ◇




セオリー通りに考えれば、真っ先に帰宅するのが正解だ。

しかし瀬高が過激な策を取ってきたということは、手段を選ばなくなってきたとも言い換えられる。


となれば外に出るために必ず通る、玄関口や校門に向かうのは悪手。

瀬高もしくはサッカー部の連中が待ち構えている可能性が考えられる。


ならは向かう先は1つ。




「失礼します」


ノックもせず、急いで家庭科準備室もといオカ研部室の中へと入る。

一緒になって連れてこられたユウカは、何がなんだか分からないなりに、静かに後ろを付いてきてくれた。



「⋯⋯待っていたよ。どうやら大変なことになっているようだね」


案の定、小南先輩が既に部室にいたが、焦る様子を隠すことなく腕を組んで立っていた。


「先輩のクラスも?」

「あぁ。なんだか分からんが、昼休みの時に瀬高が色々吹聴していたらしい。それに何故か瀬高を信じてる奴が多くてな⋯⋯」

「ウチのクラスもです」


小南先輩がユウカの存在に気がついたのか、目線で『紹介しろ』と伝えてきた。


「彼女は萩野ユウカです。アカネの友人で、信じられるヤツです」

「は、はじめまして⋯⋯」

「⋯⋯はぁ。巻き込まれてしまった以上、仕方ないな」


確かに、ユウカはただ自分に居合わせただけなのだから、連れてこなくても良かったな⋯⋯。

無闇に関係者を増やすべきではないと、頭では分かっていたのだが。



「事情は後ほど、鏡宮後輩の方から説明しておいて欲しい。私はこの後すぐに出なければならない」

「何処かに用事ですか?」

「本当は今日にでもミクの家に行く予定ではあったのだが、流石に状況が状況だ。そんなことはしてられない」



すると小南先輩は、俺の肩へと両手を置いて、「落ち着いて聞いてほしい」と前置きをしてから──。


「────先ほどリコちゃんから聞いた情報によると、保護者呼出で鏡宮後輩⋯⋯君のお母様が学校に来る」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る