Day4-5 アストラルカードって何?

「というかアストラルカードって何!?」


至極真当な質問がリコ先生から飛んでくる。

今からまた説明をするとなると、ちょっと時間が押してしまうのだが⋯⋯。



「鏡宮後輩はこのあと用事があるから、リコちゃんの疑問は後回しよ。あとで教えてあげるから」

「むぅ⋯⋯」


まるで『待て!』をされた小動物みたいな光景に、思わず笑みが溢れてしまう。


先程から薄々気が付いていたが、リコ先生が来てから小南先輩の機嫌が良い。きっと相性が良いというか⋯⋯こっちが本来の性格なのかもしれない。


(⋯⋯この事件は自分やアカネだけの話じゃない。頑張ろう)


リコ先生をはじめとして、様々な人を巻き込むことが予想される以上──中途半端は許されない。その事を改めて自覚せずにはいられなかった。




「⋯⋯鏡宮後輩が朝に見つけた現象。それは喧嘩前後でアストラルカードに書かれていた内容に差異があること、だ」

「はい。それもピンポイントで欲しい情報を拾えたのが僥倖でした」


この考えに気が付いたきっかけは、家族を觀た時と、通行人を觀た時とで、アストラルカードに出力される情報の量も質も違うと気付いたことに起因する。



本当に顔も知らない一般人だと、アストラルカードに出力される情報は、せいぜい名前程度だ。フレーバーテキストには外見情報しか載っていなかった。


対して家族を觀てみると、生年月日や所属、交友関係や隠し事まで、これでもかというくらい書き出されていたのだ。



例えば、父さんを觀た際に『最近アイドルグループのCDを買って握手券を集めている』と書いてあった。


まず父さんがアイドルグループを追っている事すら知らなかったし、興味があることも知らなかった。

事実かどうか、本人にこっそり確認したところ、そっと5000円札を握らせてきた。恐らく事実なのだろう。


ちなみに母さんのところに『最近アイドルグループを追っている父の姿を見て、思わずチサに相談した』と書いてあった。南無。




「觀る対象を知っているかどうかで、その量に差が出てくる⋯⋯という説が挙げられる訳だが、更に2つへ細分化して考えられることに気がついたかい?」


すると小南先輩は、近くにあったホワイトボードへ棒人間を2人書き出した。それぞれをA,Bと名付け、Aの棒人間にはカードらしきものが持たされている。


「Aはアストラルカードを持つ人物、つまり鏡宮後輩だ。そしてBが觀る対象⋯⋯ここではリコちゃんとする」

「⋯⋯??」


絵も会話の内容も分からないリコ先生は、先程からずっと疑問符を浮かべていた。説明は全て後回しにされているとはいえ⋯⋯おいたわしや。



「ここで『知る』という事象を細分化して、Aが知っているBと、Bが知っているAの2方向に分けて考えられる」

「⋯⋯そうか、必ずしも双方向になり得ないということか」

「理解が早くて助かる」


つまりこの図を用いて言うならば──。


「俺が知っているリコ先生は、英語の先生としてのリコ先生だけ。そしてリコ先生は、生徒としての俺しか知らない。そこは双方向のようで、理解にあたりノイズが生まれかねないということですよね」

「概ねそうだ。私達は『主観的な情報』を元に判断をすることが多い」



すると小南先輩はAからBへと伸びる矢印に『尊敬』と、BからAに対する矢印に『不良』と記した。


「リコちゃんはこんな感じだけど、一応教師として教壇に立っている。恐らく真面目な鏡宮後輩のことだ、少からず目上の人として認識はしているだろう」

「一応じゃなくてれっきとした教師だし、小南さんは私をどう認識してるの!」


すかさずツッコミが入るが、小南先輩はこれを見事にスルー。


「対してリコちゃんは、鏡宮後輩のことを不良⋯⋯とまではいかないにしても、要注意対象としては認識しているはずだ。果たしてこれは健全な双方向と言えるだろうか?」



BからAに関しては分かりやすい。

Aは不良である、という前情報がバイアスとなり、実際Aが不良でないとすれば、それは間違った知識を蓄えている事となる。言ってしまえば『誤解』だ。


「AからBは健全な関係性ではあるけれど、もしBを神格視するほど尊敬をしていれば、それもまた理解から遠ざかる⋯⋯ということですよね」

「素晴らしい。100点だ!」


余程読み取ってくれたことが嬉しかったのか、小南先輩はパチパチと拍手まで贈ってくれた。そして何故かリコ先生も右に習えで拍手をしてくれた。



小南先輩が、もう少し俗っぽい言い方に変換するなら──と前置きをしてから、指を2本立てた。


「アストラルカードで出力される情報は、2つの要素が乱数として絡んでくると推測する。


『鏡宮後輩が觀る対象に持つ印象次第で、看破する内容や量に差が出てくる可能性』


そして、もうひとつが


『觀る対象がどれだけ鏡宮後輩に心を開いているかが質に影響を与える可能性』


これらの要素があり得ると、私は考えている」



確かに、言われてみるとそうかも知れない。


仮にアストラルカードが虫眼鏡で相手を見る行為だと例えるなら、俺は『どうピントを合わせるか』が重要になるし、相手が『どれだけ見せてくれるか』によって見れるものが異なってくる。


もし俺がピントを合わせるのが下手だとしたら、顔のあたりが見たいのに、ボヤけて見えたり他のところがよく見えたりしてしまうだろう。


もし相手が非協力的で、常に動き回っていたら、その細部まで覗くことが出来ないだろう。




「────という仮説のもと、本日はリコちゃんのプライベートを徐々に丸裸にして、検証したいと思う!」


「⋯⋯って、なんで私が巻き込まれてるの!? プライベートなんて生徒に教える訳ないじゃない! それに鏡宮くんもなんでちょっと感心した風に小南さんを見てるの!!」


綺麗なツッコミ、ありがとうございます。

でも説明は後回しって言われてるので⋯⋯。



「という訳で、まずは基準値として今のリコちゃんを觀てみて!」

「はい!!」

「えっ、何、何が起きるの!? 教えてよぉっ!」



────────────────

名称:小堺 リコ


種族:人間


攻撃力:100

守備力:100


ステータス:

恐怖


八雲高校に勤める非常勤英語教師。


オカルト研究部の顧問として配属されたのは、自分はスポーツ全般が苦手であると教頭に伝えたため。

立派な顧問になれるよう、最近は地域の伝承とかを辿ってオカルトの勉強を始めている。


────────────────




「リコちゃんっ! 私は感動したよ⋯⋯!」

「えっ、うそっ!? 何そのカード!!」


リコ先生の反応から、どうやら間違った情報ではないらしい。

⋯⋯というか意外とプライベートな情報がスルッと出てきたな。


「あの⋯⋯失礼ですが、リコ先生は俺のことを不良だと認識されてるんですよね?」

「ん、不良かどうかは生徒を見る目に関係ないよ。良いことをした人は褒める。悪いことをした人には注意する。それだけだよ!」


リコ先生⋯⋯!

絶対にいい先生になれるよ⋯⋯!



「さて、そしたらこれよりリコちゃんのプライベート情報を鏡宮後輩に伝えて、リコちゃんの印象を変えたいと思います」

「えっ、なんでそんなことするの?どうしてそんな酷いこと出来るの!?」


リコちゃん先生が猛抗議するも、小南先輩はこれを華麗にスルー。

というか今に至るまで、本当にいないものとして扱ってるな⋯⋯。




「『実はリコちゃんは、教育実習先の体育の先生に一目惚れするも、教育実習の最終週に既婚者だと判明した』」


リコちゃん先生⋯⋯。



────────────────

名称:小堺 リコ


種族:人間


攻撃力:100

守備力:100


ステータス:

混乱


八雲高校に勤める非常勤英語教師。


最近マッチングアプリを始めたけど、自撮り写真だと中々上手くいかなくて、先週末にカメラ屋へ行った


────────────────



「あっはっはっは!! 言ってくれれば私が撮ったのに!!」

「うぅ、だって対価を要求されそうだし⋯⋯」


ちなみに教育実習の話は、初めて部室で小南先輩と会った時に、アイスブレイクとして暴露した話らしい。

⋯⋯打ち解けるための話題としてはどうなの、それ。




「次いくよ!」

「うわぁーん、小南さんがイジメてくるぅ!」


「『ネイルにつけるストーンのことを、キラキラしたヤツと称していたことが生徒にバレた!』」


────────────────

名称:小堺 リコ

(一部略)

ステータス:

泣き


八雲高校に勤める非常勤英語教師。


高校では料理部、大学では登山サークルに入っていたため、爪を伸ばすことをしなかった。そのためネイルをしたことが殆どない


────────────────



リコちゃん先生⋯⋯!


「真面目だねぇ。あんまり意外性はなかったかも」

「なんでっ、ちょっと残念そうにしてるのよ!」


個人的には好印象です。爪が長いとデッキシャッフルに影響が出るし、カードを傷付ける恐れがあるからね。




「はい次!」

「どんと来いやぁ!!」

「『最近は勉強時間を確保するために、誰よりも朝早く学校に出勤している!』」


リコ先生⋯⋯!!


────────────────

名称:小堺 リコ

(一部略)

ステータス:

泣き


八雲高校に勤める非常勤英語教師。


若手の仕事だからと、鍵開け当番を任された。


────────────────



「リコちゃん⋯⋯ちゃんと辛かったら言うんだよ?」

「俺達はリコちゃんの味方ですから⋯⋯」


「う、うぅ⋯⋯なんで鏡宮くんまで『リコちゃん』呼びになってるのさ⋯⋯」



⋯⋯小南先輩がリコちゃんと呼びたくなる理由が良くわかった。

これからは敬意を表して俺もそう呼ぼう。

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