Day4-4 オカルト研究部

月曜日 放課後


昼休みで一旦別れたのち、放課後に再びオカ研の部室へと足を運んでいた。


小南先輩と俺は今や共闘、もとい共犯仲間であることが確認できた以上、こちらも知っている限りの情報を全て話した。


途中途中で小南先輩がカカオシガレットを噛み砕いていたから、やはり状況としては一致している箇所が多いのだろう。



しかしそれ以上に、この状況に至る要因となった『アストラルカード』へ示す関心の方が強いようで、終始顎へ手を当てて凝視していた。


「このカード⋯⋯以降は便宜上アストラルカードで統一して呼称しよう。実在のカードと混在するが、呼び分けるのも違う気がする」

「いいですね。思いがけずそれっぽいですし」

「アストラルカードがこの事件解明に一役も二役も活躍することは間違いない。逆にコレを上手く使いこなすことこそが『試練』に相当すると考えて良さそうだ」


そう言って俺の手元にあるアストラルカードを小南先輩が掴もうとするが、願い叶わず空を切ってしまう。


「⋯⋯どうやらそのカードは鏡宮後輩にしか使えないらしい。奪うつもりは別段ないが、融通が効かないと思ってしまうのは流石にエゴか」

「奪われる心配がない、という点では最強のセキュリティですけどね」



そしてこのアストラルカードの『使い方』について知ることが、これから着手するべき課題の最優先事項であると、小南先輩と意見を一致させた。


「察するに、朝の騒動には意味があった。そして本来の目的は無事達成出来て、副産物としてアストラルカードの検証が出来た⋯⋯と」


朝の騒動──瀬高ヒイロとの口喧嘩のことだ。


元々の目的は、しっかりと敵対意思を示すこと。

それを公然の場で行うことで、周囲の人間にも認知させることが出来る。


「恐らく今頃、職員室では君達について議題に挙がっているだろう。少なくとも、以降は2人を鉢合わせさせないように、学校側が対処する筈だ」

「個人的には効果てきめん過ぎて驚きました。生徒会長にも迷惑を掛けてしまいましたし」

「いや、牽制するという意味では百点満点だ。あそこまで認知されれば、あとは噂でどこまでも広がっていく」


デメリットがあるとしたら、明日以降に呼び出しを食らう可能性があることか。

ふふ、これで俺も立派な不良入りかなぁ⋯⋯。内申点は今のうちに諦めておこう。




────コン、コン。

部室の扉がノックされる。


小南先輩は訪問者に心当たりがあるのか、「入ってどうぞ〜」と気さくに声を掛けた。


「どうも〜、ちゃんと部活やってる?」


入ってきたのは、この学校の英語教師──小堺リコ先生だ。確か今年度から赴任してきた、新卒の先生だったはず。


「おっ、リコちゃ~ん。教師のお仕事お疲れ様〜」

「今日のは教師の仕事というかなんというか⋯⋯。生徒同士の喧嘩が朝からあったみたいで、それに関する対応について長々と説明を受けていたのよ」


おや、なんだか心当たりがありますね⋯⋯。

ふと小南先輩を見ると『ほらね?』と言わんばかりの笑みを浮かべていた。

なんか楽しんでいませんか?



「喧嘩なんて物騒だねぇ。リコちゃん、かわいいんだから気を付けないと」

「ほんと物騒だよね! 私、こう見えても元風紀委員なの。不良生徒はいつの時代もいるものなのね。許せない!」


⋯⋯というか、リコちゃん呼びを許しているんだ。

それにカワイイと言われても否定しないんだ⋯⋯。


確かに俺なんかよりも背が小さくて、黒板の上の方がいつも空白になってしまうのが印象的な先生ではあるのだが。

本当にそれで良いのか、リコ先生?



「特に驚いたのが、私の授業を受けている生徒がその片方だったの。いつもぽや〜んとしてるけど、しっかりノートは取ってるから真面目な生徒だと思ったんだけどなぁ」


⋯⋯もしかして、俺のことか!?

よく見るとリコ先生の視界には小南先輩しか映っていないようで、俺の存在に本気で気が付いていないらしい。


それに合わせて先程から小南先輩がずっとニコニコしている。『いつ言う?いま言う!?』と言わんばかりの眼差しでこちらを見ないで頂けますか?



「まぁ、話が進まないので先に言っておきますけど、事件の渦中にいる鏡宮後輩が今そこに座ってますからね?」

「⋯⋯⋯⋯えっ!?」


「えぇぇぇぇぇーーー!!!!」


⋯⋯今日一番の大声を、まさか放課後に更新するとは思わなかった。



◇  ◇  ◇  ◇  ◇




一頻り騒いだ後、3人は囲むようにして座った。


これ以上なく愉悦顔の小南先輩と、大変申し訳なさそうにしているリコ先生。そんな2人に挟まれて、どんな顔をすれば良いか分からない俺の豪華メンバーだ。


「うぅ、ごめんね鏡宮くん。悪口を言うつもりはなかったの。ただちょっと普段とイメージが違かったから⋯⋯」

「ちゃんと謝ってよねリコちゃん。折角の入部希望者なんだから、もし顧問のせいで逃がしたなんてことになったら⋯⋯ねぇ?」

「ひぃん⋯⋯」


まるでイジメの現場に遭遇しているみたいだ。

何も知らない人からみれば、朝の光景とドッコイドッコイなのではないだろうか。


というか、サラッと入部させようとしている小南先輩の発言の方が気になってしまうのだが!



「良いんですって。自分でも朝のはやりすぎたなと反省してますし」

「鏡宮くん⋯⋯!」

「でもあの瀬高と同列に扱われるのは気に食わないので、そこだけは認識を改めて頂けると」

「⋯⋯鏡宮くん、反省してないでしょ」


そりゃまあ、ねぇ?

なにかあったら、またやるよ。




「ということで自己紹介と仲直りも程々にして、アストラルカードの検証に早速入っていくわよ!」


⋯⋯⋯⋯えっ!?


「ちょ、ちょちょちょ、小南先輩!?」


──部外者(リコ先生)がいるのに、その話を進めてしまって良いんですか!?

そうツッコもうとするも、『まぁ待て』とジェスチャーして止めてきた。


「リコちゃんは顧問である以上、この部室を出入りする機会が多い。それに教師陣と連携を取る上で必要不可欠なパイプ役に仕立てる以上、避けて通るのは難しい」

「まぁ、それもそうですけど⋯⋯」


その前に一言だけでも前置きを入れてくれれば良いものを。ビックリし過ぎて変な汗が出てきたぞ。



「それに、リコちゃんは信頼できるわ。程よく正義感もあるし、素直だし。なにより懐柔しやすい」

「⋯⋯ねぇ、小南さん。それって褒め言葉じゃないよね? 私のことを音のなるオモチャとして捉えてない?」


それは大分前から、はい。

というか信頼できる基準、それで良いんだ⋯⋯。


「ということで、今日はリコちゃんで遊ぼうの回にしようと思います!」

「やっぱり私のこと、オモチャか何かだと思ってるでしょ!」


⋯⋯そういう所だと思いますよ、リコ先生。

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