Day2-2 人を觀る能力

目の前にいる白装束のオッサンが、神様を自称していた。


不自然な出で立ちに『確かに』と納得しかける気持ちもあるが、それ以上に困惑の色の方が強かった。



「えぇっと⋯⋯本当に神様?」

『我は◎△$♪×¥●。この地にて奉られし神なり。汝らには、八百万の神の一柱として崇められている。断じてオッサンではない』


心の中を問答無用で読んでくる以上、何をしようとも抗いようがないと悟る。

目の前で起きている事象は夢に違いない──しばらくすれば醒めるだろう。



「⋯⋯それで、力を欲するか否かだって?」

『汝が欲する力を、我なら授けることが出来る。その資格があると、己が力を持って示すことが出来ればの話だが』


力⋯⋯力か。

確かにこういう異能の力を授けられる展開は、普段見ている漫画やアニメでよくある話。まさかこうして夢を見るほど欲していたとは⋯⋯我ながら凄く恥ずかしい。


しかしこれが夢の中の話だと言うならば、割り切って話に便乗するとしよう。



「それで、どんな力を授けてくれるのさ。魔法が使えたり、剣術が上達したりするの?」

『⋯⋯汝は少々、創作物の読み過ぎだ。仮にそんな力を与えられたとて、何をもって活かすというのだ』


至極真っ当な正論。

てかなんで夢の中で説教されてんだ?


『我が与える力はただ一つ。相手を觀る力だ』

「⋯⋯いや、目なら親からもらったのが2個ついているんだが」

『その目に力を付与するということだ。より觀えるようになる』


視力が上がるってことか?

それならまぁ⋯⋯。最近視力が落ちてきたし、メガネにしようかなって考えてたところだったんだ。


『何とも言葉で伝えるのは難儀なものよ⋯⋯』


なんか目の前のオッサンが勝手に落胆しているのだが。なんだよ、視力を上げられるのは地味だけど、誰でも喜ぶ能力だろう。もっと自信を持てばいいのに。




『⋯⋯実際に使ってみるのが良かろう。どれ』


そう言って自称神様のオッサンが、いつの間にか手にしていた笏をこちらに向けた。


『破ァッ!!』

「うぉっ!!」


勇ましい掛け声と共に、俺の体へと衝撃が走る────まるでピンポン玉を当てられた程度の威力で。

勢いに乗せられて思わず後ろへよろけてしまうが、結果的に大した威力ではなかったため、少しだけ恥ずかしかった。


「夢の中だし、そう痛くはないか」

『汝はまだそのようなことを⋯⋯。まぁいい。とりあえず話を聞け』



少し億劫がっているような素振りを見せつつ、自称神様は再び笏をこちらに向ける。


『想像せよ。汝は何をもって世界を觀るか』

「何をつったって」


絆を結んだモンスターが住まう星(アストラル)とリンクして、世界中いや全宇宙を巻き込んだ種族最強を決めるために競い合ってだな⋯⋯。


『それは汝のやっている紙束遊技の話じゃろうが!!』

「紙束言うな!アストラル・リンクっていう立派な名前があるんじゃい!」



────次の瞬間。


目の前に何かボンヤリとしたものが浮かび上がる。

それはモヤに隠れたように、形が不定形なものにも見えたが、徐々にその姿を露わにしていく。


⋯⋯いや。自分はそれを知っている。

幼き頃から触っていたものであり、見間違えるはずがなかった。



「アストラル⋯⋯カードだと?」


『は?』



目の前に浮かぶソレへと手を伸ばすと、確かにつかみ取ることが出来た。

寸法、重み、そして裏面のデザイン。そのどれをとっても、カードゲーム『アストラル・リンク』で用いるカードであった。


肝心なのは効果が書いてある表面なのだが⋯⋯。



────────────────

名称:◎△$♪×¥●


種族:神


攻撃力:4500

守備力:3000


効果:このモンスターが場に出た時、相手の手札を見ることが出来る。その後1枚選択して除外することができる。

────────────────



「⋯⋯うわ、禁止カード級じゃん。オリカ作るにしても、もう少しルールとか流行を汲んだほうが良いよ。せめて特殊召喚は出来ないみたいな縛りは最低限必要だよね」


『⋯⋯⋯⋯』


目の前にいる自称神様、もといモンスターは下を向いて押し黙る。


なんだ。急に恥ずかしくなったのか?

そりゃそうだろう。こんな禁止カード級のオリカをドヤ顔で見せつけて、それを酷評されればなぁ。



『この⋯⋯罰当たりがぁ! 世界を觀ると言ったら他にあるじゃろうに!』

「眼鏡とか、手鏡とか?」

『⋯⋯なんでそれが分かっていて、敢えてカードが出てくるんじゃ。なんなら現代に合わせてスマートフォンの準備をしていたというのに』


悪いね神様。

こちとらカードゲームで情操教育を終えているんだわ。


『そんなんじゃから愛想を尽かされるのじゃよ』

「流石にそれはライン越えだぞオッサン!」

『なーにが「俺はだらしない人間だ」じゃ。紙束遊技にしか熱を入れられない阿呆なだけじゃろうに』


クソッ、反論できねぇ⋯⋯。




『──こほん。ともかく力は与えた。見事試練を乗り越えた際には、正式に巫女としての役割を授けよう』


いらねぇ⋯⋯。

というか試練ってなんだよ。聞いていないぞ。


『試練については⋯⋯すぐにでも分かる。今の汝が越えなければならない壁に他ならないのだから』


なんかそれっぽいことを言って誤魔化そうとしていないか?

⋯⋯まぁ、俺の夢の中だし。細部まで設定を詰められていないのは御愛嬌か。



「試練だか巫女だか、俺にはサッパリ訳わからんが⋯⋯ありがとう神様」

『なんじゃ。力を与えたことに関してか。殊勝な心掛けよの』


そっちはぶっちゃけどうでもいいが⋯⋯。


「多分もう知ってると思うけど、俺最近失恋しちゃってさ。というかここ最近ずっとモヤモヤしてたから、あまり楽しくなかったというか」


通学路で無視されたあの時から、ずっと心にヒビが入っていたんだ。

昨日のでそれがバックリ割れたというだけで。


「神様と話して、なんだか分からないけど、すっげぇ楽しかった。一頻り遊んだら、落ち込んでるのが馬鹿馬鹿しくなってきたわ」

『う、うむ⋯⋯。なんだか釈然とはしないが、その気持ちだけでもありがたく受け取っておこう』



「またこの神社に来たら話せるのか?」

『いや、それは難しいじゃろう。儀式を行えばあるいは』

「そっか。儀式とかは興味ないから、これが最後だな!」


そういうと神様のオッサンが微妙な顔をしていたが、見なかったことにしよう。



「本当にありがとう、神様!」

『達者でな、人の子よ────』



次の瞬間、目の前にいたオッサンが靄となって消えていった。まるで蒸発していったかのように。






「なんだったんだろうな、今の」


随分と訳の分からない夢だった。

人心地つくために、改めてベンチへと座り直す。ずっと立って問答していたためか、なんだか妙に足へ疲労感が⋯⋯。


「ん、疲労感⋯⋯?」


試しに頬をつねってみる。

痛い。普通に痛い。


「⋯⋯そんな馬鹿な」


次いで自宅にいる母さんに電話を掛けてみるも⋯⋯。

『そろそろいい時間なんだから帰ってきなさいよー!』

とだけ言われて電話を切られてしまう。



「いやいやいや⋯⋯まさか、な」


夢の中、なんだよな?


困惑しながらも手元に残されていたアストラル・リンクのカードを見てみると、そこには何も書かれていなかった。

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