ナツ
リウノコ
1日目
それは、とても暑い夏の日のことだった。
当時8歳だった僕は、夏休みを利用して、祖父の家に遊びに行った。
父が運転する車でガタガタ道を行く。
全開にした車の窓から大きな入道雲を見上げながら、心を躍らせていたのを覚えている。
祖父の家に着くと、祖父は笑顔で出迎えてくれた。白い歯と健康的に日焼けした顔、それにピンと伸びた背筋は、まだまだ元気そうだった。
「おじいちゃん、きたよ!」
「おう、よくきたな。今年は何日までいる予定なんだ?」
祖父が麦わら帽子を片手で抑え、僕の顔を覗き込んでくる。湿った土の匂いがした。
「1週間、滞在することになると思います」
上から、低い声が降ってきた。
「お、辰巳くんか」
「ご無沙汰しています」
そう言って父は頭を下げた。
祖父の家は、大きな日本家屋だった。家の中のどこにいても、風鈴の音と一緒に、涼しい風が通り抜けていくような家だった。
家の裏手には小さな山があり、それを越えるとすぐに海だった。だから風が吹いている日に二階の窓から身を乗り出すと、潮の香りが微かに漂ってくるのだった。
僕は車での移動に疲れて、日が暮れるまで縁側に座ってボーっとしていた。陽が沈んで、畳の上に寝転がるとほんのり暖かかった。
そのままじっとしていると、まだ車に揺られているような気がしてきた。エンジン音まで聞こえてきそうだった。
――これは夢で、僕はまだ車の中で寝ているんじゃないか。
そんな不安を覚えて頬をつねってみる。
――痛かった。
縁側を離れて二階へ向かう。毎年、僕の部屋として使わせてもらっている少し狭い部屋。そこの窓枠に肘をついて、山の間に沈んでいく夕日を眺めた。
僕たちは揃って夕食を食べた。祖父の畑で採れた夏野菜のカレーライス。毎年、泊りの1日目はこれと決まっていた。
「おいしい!」
そう言うと祖父は乱暴に僕の頭を撫でた。
「そうだろう? わしの畑でとれる野菜は天下一だからな!」
父はその言葉に何度も頷いていた。
夕食後は風呂に入り、早めに就寝した。明日からの探検に備えるためだ。
僕は泊りに来るたびに家の周辺を歩き回っていた。
父には危ない場所には絶対に行かないように、と釘を刺されていたが、そんなことはお構いなしだった。
僕がこの夏を特に楽しみにしていたのは、前年、帰る前日の夕方に見つけたまま、時間がなくて探検できなかった場所を探検するという目的があったからだ。
あそこには、何か面白いものがあるに違いない。そんな根拠のない自信があった。
太陽の匂いがするベッドに横になり、胸の高鳴りを必死に抑えながら、僕は何とか眠ることができた。
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