第3話 影の都
夜が、深く降りていた。
丘を越えるたびに風が冷たくなり、
月光は土ではなく、黒い水面を照らしている。
ギュールズは歩きながら息を吐いた。
吐いた息が白く揺れ、光に溶ける。
「……変な感じだな。
太陽が見えねぇのに、ちゃんと世界が動いてる」
「ここは“影の都”。
光が届かない場所で、人々は生と死の境をつくった」
アジュールの声はいつになく低い。
「死の理が消えたあと、死を拒まれた者たちが逃げ込んだんだ」
「死を……拒まれた?」
「死ねないことが、永遠の罰になる場所だよ」
ふたりが坂を降りると、地の底に広がる街が見えた。
黒い石造りの建物、静かに灯る灯籠。
夜の中でしか呼吸できない者たちの国。
街の広場には祈りの声が響いていた。
――〈セーブルよ、われらを見捨てないで〉
その名に、ギュールズの瞳がわずかに揺れる。
「セーブル……あの“死神”の?」
アジュールが頷く。
「そう。死の理の
闇が揺れた。
灯籠の火が一斉に消える。
沈黙の中、ひとつの声が響いた。
「――ようこそ、陽の御子と青の理よ」
黒い霧の中に、銀の髪の人物が立っていた。
白衣をまとい、瞳は深く澄んでいる。
「わたしは……サーブル。
かつて死神セーブルの理から生まれた“影の写し身”だ」
ギュールズが息をのむ。
「おまえ、死神の仲間か?」
「仲間ではない。
だが、あの者の“沈黙”を知る者だ」
サーブルの声が、冷たくも優しく響く。
「死とは静寂。静寂は秩序。
――過剰な生が、世界を壊している」
アジュールが銃へと姿を変える。
「死を取り戻すために、また世界を止める気か」
銀の影が微笑んだ。
「そうではない。止めたいのは、“狂った命”だ。
――太陽よ。おまえは生をどう使う?」
ギュールズは拳を握りしめた。
「オレは……終わらせるために生きてるわけじゃねぇ!」
紅炎が噴き上がる。
闇がそれを飲み込み、理の弾が交差した。
紅と蒼と黒がぶつかり合い、
影の都が震えた。
闇の中で光が問いかける。
“生”は何のためにあるのか。
――次回、幕間Ⅰ『セーブルの記録』。
死神の理が遺した言葉が、ふたりを導く。
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