紅と蒼の記録 ―セーブルとヴァートの世界より―
白(はく)
第1話 紅の陽、蒼の銃
――世界が、光に焼かれはじめていた。
十年前、死神がこの地を去ってから、
誰も“終わり”を迎えなくなった。
死は消え、生は過剰に溢れ、
世界はゆっくりと“生きすぎて”いる。
焼けた大地を、ひとりの少年が歩いていた。
風に揺れる紅の髪、太陽のように光る瞳。
肌には熱を帯び、足跡から草が一瞬だけ芽吹き、すぐ灰になる。
――太陽の化身、ギュールズ。
「……オレのせいかもしれないな」
空を仰ぎながら、彼は苦く笑った。
燃えるような陽が背を押す。
炎の粒子が空に昇り、雲さえ赤く染める。
その瞬間――
パァン。
乾いた音が世界を割った。
空気が凍り、炎がひとつ、音もなく止まる。
「……なに、今の?」
紅の光の向こうに、青があった。
蒼い髪、硝子のような瞳を持つ少年が、
煙を上げる銃口を下ろす。
「理の弾だよ」
「理ぃ?」
「秩序を整える弾丸。――キミの炎が、少し世界を壊していた」
紅と蒼が、風の中で向かい合う。
灼熱と冷静、衝動と理性。
ただ、その狭間に生まれた沈黙は、不思議と心地よかった。
「……オレの炎を止めたのか。すげぇな、青いやつ」
「すごくない。キミが暴れてたから撃っただけ」
ギュールズは笑う。
太陽のような笑みだった。
「オレはギュールズ。で、あんたは?」
「アジュール。ボクは――武器だ」
「へえ、武器が喋るのか」
「キミの光が人を焼くのと同じくらい、
ボクの弾も世界に影響を与える。……だから、制御する必要がある」
「だったら、オレが撃ってやろうか?」
アジュールの瞳がわずかに揺れた。
次の瞬間、彼の身体が光の粒に変わり、
青の銃がギュールズの腕に収まる。
紅と蒼が重なった。
世界が震え、風が鳴る。
「行くぞ、アジュール――!」
紅炎の弾が放たれ、
空を裂く閃光が地平を走った。
紅と蒼の初撃。
それは、滅びかけた世界が再び息をするための、
“最初の黎明”だった。
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