ねむりおばけ
秋犬
今夜はあなたのところへ行くかもしれません
ねむりおばけは、人々に眠りをもたらすおばけです。大きな黒い目にひらひらの白い
あ、あそこに眠れないで苦しんでいる女の子がいます。女の子は神様に「今日は安らかに眠れますように」とお願いをしています。ねむりおばけは女の子の元へふんわり降りていきました。
「あら、あなたはねむりおばけね?」
ねむりおばけは、ふわりと頷きました。
「よかった、これで私も眠れるのね」
ねむりおばけは、女の子を包み込むように抱きました。白いふわふわの中で、女の子は静かに目を閉じました。ねむりおばけはとてもいい匂いがします。まるで天国へ昇るような夢心地の中で、女の子はぐったりと夢の世界へ旅立ちました。ねむりおばけはそっと女の子をベッドに横にすると、また夜の街を彷徨いました。
今度は路地裏で座り込んでいる酔っ払いがいます。酔っ払いは酔って一歩も歩けませんし、帰る電車もありません。ねむりおばけは酔っ払いに近づきました。
「なんだお前、やんのか?」
ねむりおばけは、ふるふると首を横に振りました。
「じゃあ、何だってんだよ」
ねむりおばけは、酔っ払いを包み込むように抱きました。酔って動けない酔っ払いはねむりおばけの為すがままになりました。やがて酔って忘れたかった記憶が後から後から湧いてきて、酔っ払いは泣き始めました。ねむりおばけは酔っ払いの涙を拭いて、地面に横にしました。酔っ払いは静かに横になったまま、夢の世界へ旅立ったようでした。ねむりおばけは、また夜の街を飛んで行きます。
そろそろ朝日が昇ってくるようです。ねむりおばけは最後に大きな病院を訪れました。
「ねむりおばけさん、こっちこっち」
そこにいたのは、ねむりおばけの友達でした。
「今日はどうでしたか?」
ねむりおばけは友達に向かってピースサインを繰り出しました。
「そうですか、よかったですね。私はうまくいかなくて、これからちょっと寄っていくところです。一緒にどうですか?」
ねむりおばけは、ふわりと頷きました。病院には必ず「眠り」を待っている人たちがいます。ねむりおばけは、友達が入院患者を夢の世界へ誘うところを見ました。そして、「眠りってとてもいいものだな」と思いました。
その日の朝、入院患者のうちの2名が息を引き取っているのを巡回の看護師が見つけました。その死に顔はとても安らかで、まるで眠っているようだと彼女は思ったそうでした。
<了>
ねむりおばけ 秋犬 @Anoni
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます