妹の秘密

ましら 佳

第1話

それは、ハタチ前。

友達の家に遊びに行った時。

彼女は三姉妹の真ん中で、長姉はすでに社会人。


仮に上から、松子、竹子、梅子とします。


松子嬢は個室を持っていたのですが、友人は、一部屋をアコーディオンカーテンで区切って妹と共有していて。


私は一人っ子なので、きょうだいがいる友達が羨ましくて。

今でこそ一人っ子ってザラだけど、当時は結構珍しかったんですよ。

親は、一人っ子って言われるのが肩身狭い時代だったらしい。


戦後、自民党の家庭のモデルケースが、「お父さん・お母さん・子供二人、あるいは三人」ってのがあったように、まだまだ産めや殖やせや富国強兵な時代引きずってたんですよね。


子供にとってはそんなことより、「ねぇ。一人っ子て、家で暇じゃないの?」とよく聞かれたもんでした。


でもね。

私くらいの一人っ子のセミプロになるとね、ドンジャラも一人でやれるから。

サクラドロップ全部出して、どの味が一番早くコップの水に溶けるかとかやったり、暇つぶしの天才。


ある日、遊びに行った時、友達が「ねぇ、一人っ子じゃできない事しない?」と提案を。


それは彼女なりの優しさでもあり。


・・・一人っ子じゃ出来ないことって・・・何??


私、メンツが4人必要なドンジャラも一人でやるのに???

・・・バレーボールとか????


「違う違う!探し」


・・・や、探し?????


そう言うと、彼女はアコーディオンカーテンをギュンギュンに開けて。


隣は花も恥じらうお年頃のJK、妹ちゃんの部屋。

妹、現在、お習字教室で不在。


「はい、そっち探して!」

「探す?何を?何か失くしたの?」


ああ、もう、これだから一人っ子は、と舌打ちされる。


「人に見つかったらまずいもんに決まってんじゃん!!!」

「え?いや、見つけたらまずいってことでしょ?えー?」


大体、見つかっちゃまずいものって何???

へそくりとか???


「だからさ!妹が秘密にしてることだってば!知りたくない?」


え?・・・ええぇえ?


30分後。


出て来たのは、食いかけのお菓子とか、27点の世界史のテスト。


ほうほう。ドレドレ?

ローマ時代の問題ですか?


問.紀元前44年、ローマ時代、独裁を恐れた共和制を支持する者達に暗殺された者、また名言ともなった暗殺を行ったうちの一人は誰か?


解.ディオールとハインツ


・・・誰??


クリスチャンとケチャップの事??


正解は、カエサルとブルータス。


「あ、マジでウチの妹のテストとか見ない方がいい。塾の先生もがっかりしてっから。ちょっと、クッキー、カビてる!!最悪!」


・・・秘密ったって、高1JKだもん・・・こんなもんだよね。


「んん?!あると思ったあ!」


友人が引っ張り出して来たのは、隠すようにベッド下の収納に入っていた雑誌。


当時、少女漫画が過激化して来ていて、これエロ本じゃない???ってのが増えて来た頃で。


その表紙に書いてある宣伝文みたいのが。

“学校でエッチ”。


・・・が・・・ががが、がっこう・・・??


内容は、絵は可愛いけど、なかなかハード。


「・・・いや!!え??校則には書いてないけど、学校でエッチしちゃいけないの、妹分かってるよね??」

「いやあ・・・ウチの妹、マジでアホだから、わかんないかもしんない・・・」

「と、とりあえずさ。同じように隠しておこうよ。見なかった事にしよう!」


しかし、友人は。


「おかーさーん、おかあサーーーン、ちょっと来てーーー!」


えええええええ??


「何ー?ねえ、ましらちゃん、おやつ、ふかし芋とデメルのザッハトルテどっちがいい?」


・・・おばちゃん、すごい高低差じゃない・・・?


「お母さん、見て!!梅子がね!こんなの隠してたの!」

「は?んまあああああッ!?」


赤点の答案用紙と"学校でH"を見て、お母様、血相を変えまして。



1時間程して、梅子ちゃんが呑気に書道教室から帰宅。


「ただいまあ。あ、ましらちゃん、来てたのー?」

「ハイ!お、お邪魔しておりました・・・」


お母様、すぐに末娘を呼びつける。


「梅子!ちょっと、座って」

「え、何ー?」

「これ」


お母様、くだんのマンガ雑誌をずいと見せ、みるみる梅子ちゃんの顔が赤くなり・・・。


「いやああああ!!勝手に私の部屋漁ったの、お姉ちゃんでしょ?!」

「ハア?アンタが悪いんでしょ?!」


私、きょうだい喧嘩がおっぱじまる予感にスタコラ逃げようと。


「あー・・アタシ、帰りますう・・・」

「ダメ!居て!」


と、友人とお母様に呼び止められ。


「な、なんで?!」


そして。


始まったのは、反省会と言う名の制裁、そして悪ふざけ。


梅子嬢。

母、姉、そして関係ない姉の友人の目の前で、リビングで、エロマンガの朗読をさせられる羽目に。


いやしかし、「ああっ」だの、「すごい」だの・・・。

聞いてらんないわけですよ。


帰っていいですかね!?


しかも、姉、竹子は放送部。

ちゃんと読め、の指摘が細かい。


「・・・か、漢字が、よ、読めないー」

「アンタは読めもしないエロ本買ってんの?!お小遣いなんかもうあげないよ?!」

「梅子、ちゃんと最後まで読みなよ?私は教えないからね?」

「お姉ちゃんになんか聞かない!バカ!・・・ま、ましらちゃん、これ、なんて読むの・・・」

「エッ?!・・・わ、わき?」

「・・・これは?」

みだら・・・」

「これ・・・?」

愛撫あいぶ。・・・ねぇ?もう、私、ホント、帰っていいかな?!」

「ダメ!漢字読めないから、帰らないで!」


そのうち、長女、松子、会社から帰宅。


「ただいまーっと。あ、ましらちゃん来てたのー?」

「どうも、おかえりなさい。あの、私、ホント帰りたいんですけど。・・・やめてあげてって言って?」

「は?何?また梅子なんかしたのォ?」


説明したら、松子、大爆笑。


「梅子!お姉ちゃんにも聞かせてよォ!」


とんでもない母親と姉達。


引き続き、朗読会。


「お服が・・・」

「・・・ん?いや、梅子ちゃん、おかしくない?服なんか、だいぶ前ですっかり脱いでなかった?大体、お洋服っては言うけど、お服って言う?」

「え?だってコレ、服でしょ?」


どれどれ。


いやーしかし、これほんと少女マンガかい?


「・・・ふくじゃなくて、マタ!大体、この流れで、お服はないでしょ?!お股だよ、お股!!」


母、姉's、大笑い。


「お服だって!」

「だから言ったじゃん!マジでアホなんだって!」

「梅子、漢字の書き取り大っ嫌いだったもんねー?」


ひどい!と言いながら、梅子のアテレコ朗読は続く。

たまに私に、漢字の読み方を聞きながら。


そして、話の展開に、都度都度、


「なんじゃこの話!そんなわけあるか!?」

「学校でこんな昼にフランス料理みたいの食ってるカッコいい先生いるか!?一平ちゃん食ってヤンマガとか読んでるオッサンしかいないだろが!」

「あーもー、お母さんはバカバカしくて、聞いてられないわー!」


という、母と姉達のツッコミ付き。



まあ、これで、変に興味を持った妹の不純異性交遊は避けられたのかもしれない。


妹の秘密、そこは軽めの地獄でした。


皆さんも、ぜひ、秘密は秘密のままに。



















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妹の秘密 ましら 佳 @kakag11

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