第2話 日常は壊れた
蒸治は一軒家に一人で暮らしている。わりと古びているがしっかりしたつくりでまだガタは来ていない。家の中に入るとすぐにパソコンを開き、昼間遭遇した事象についてSNSで調べてみた。
「神保町、魔法少女。……あった」
:魔法少女が神保町の炎上モンスターを倒してくれた!!
:神保町バイトテロ犯ざまぁ!魔法少女さすが!
:魔法少女可愛い(*´Д`) 炎上さんざまぁ!
「炎上?神保町でバイトテロ?」
別タブにニュース記事が載っていた。よくあるバイトテロの炎上らしい。神保町の飲食店のようだ。
「関連性があるのか?」
思考を走らせるが、あのフワフワした空間と炎上騒ぎがくっついてくれない。だがSNSにはあの魔法少女の活躍している写真が写っている。どうでもいいがあの少女の変身後の姿は大日本帝国軍の大礼服に似ているなと蒸治は思った。それをスカートにしたワンピース。軍服がカジュアルになっていることに少し違和感を覚えた。
「これがかわいいなのかね?」
動画もあった。ピンク色に金色の瞳のあの魔法少女がモンスター相手に銃撃している姿。それを見てすこし視界がちかちかした。落ち着くために蒸治は少し深く息を吸って吐いた。そんなときだった。
「うん?ストリーミングが止まった?」
SNSの呟きに添付されている動画の再生が止まった。そして次の瞬間そのポストはぱっと消えた。
「消したのか?」
そう思って再度SNSに魔法少女と神保町をキーワードにして検索したが、さっきまであったはずの呟きがない。
「いや。消されたのか?」
消したのはあの魔法少女だろうか?だがそんな技術力があるようには思えなかった。それにそんなに用意周到な奴ならば、今頃蒸治がこうしていられるはずもない。ちぐはぐしている。
「だけど魔法少女がいるってのだけは現実なんだな」
だがそれが自分に関係あるとも思えない。パソコンを閉じて酒を飲んでから蒸治はすぐに眠ってしまった。
まだハイスクールにいた時のことを蒸治は夢に見た。ニューヨークのエリート校に通い、成績もスポーツも何でもこなせた人気者だった。学校一の美人と付き合い、将来はハーバードに行くことも決まっていた。両親は誇らしげに笑ってくれていた。何も恐れることなんてない。世界は壊れない。そう信じていた。
『ありえない!!国民の皆さん!アメリカが攻撃されている!!ああ、そんなぁ!!』
学校に来て授業が始まってほんの少し経った時だった。教師が慌ててテレビをみんなに見せたのだ。校舎の外からはサイレンの音が響いていた。蒸治はテレビを見てからすぐに教室の外に出た。そして彼は校庭から見たのだ。世界が壊れる瞬間を。
心臓が痛いほどに鳴っている。汗もびっしょりかいていた。
「ここは日本だ。日本なんだ。アメリカじゃない」
蒸治は布団から出てベランダに出る。無性に外の空気が吸いたかった。そして胸に手を当てて、息を整える。
「もう終わった。もう終わったんだ。終わった終わった終わった」
だんだんと脈拍は戻ってくる。そして朝日が目に入ってきて、やっと意識がはっきりとしてくるのを感じた。
「え?おじさん?!」
女の子の声がした。隣の家からのようだ。そちらに目を向けると、隣の家のベランダにピンク色の髪に金色の瞳の綺麗な顔をした少女がいた。パジャマを着ている。手にはブラジャーが握られていた。干そうとしているようだ。
「あ、昨日の魔法少女?」
「そうですけど、そうだけど!!なんで隣にいるの?!!」
そんなの自分が聞きたいと蒸治は思った。ピンク色の髪の少女はブラジャーを慌てて後ろに隠していた。予感があった。これはもう巻き込まれたんだろうと。あの日、世界が壊れてしまったように。蒸治の日常はもう壊れていたのだ。
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