新撰組転生録 −異界に咲く蒼き旗−

土岐 誠一郎

プロローグ

第1話 ✦誠の刃は時空を越えて✦――土方歳三、異世界へ

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 明治二年、五月十一日――箱館戦争、終盤。

一本木関門前。血と黒煙が渦を巻く中、新撰組副長・土方歳三は馬上にいた。

足元には倒れ伏した仲間たち。新政府軍に塞がれ、退路は消えている。


(ここまでか……いや、まだだ。)


 土方歳三は馬上で身を低くし、刃へ全ての想いを込めた。

次の瞬間、腹の底から声を絞り出し、馬の腹を蹴った。


「――突っ込むぞッ!」

「副長!死ぬ気ですか!?」


 新政府軍の銃口が一斉にこちらを向いた。


「撃てえっ!!」


 乾いた銃声が響く。胸を撃ち抜かれ、視界が揺れた。

だが、それでも――


「新撰組、誠の旗のもとに…武士の名を汚すなァッ!!」


 最後の力を振り絞り、一太刀を浴びせる。銃兵が倒れ、血が雪煙のように舞った。その瞬間、全身から力が抜け、馬上から崩れ落ちる。


 痛みはなかった。ただ、静かな闇が世界を覆っていく。


(これで…俺の役目も…終わりか…。)


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 -トクン


 暗闇に、一つの“音”が響いた。それは心臓の鼓動――だが“自分”のものではない。

もっと弱く、頼りない鼓動だった。誰かの祈りの声が聴こえる。


「……トシ…トシ…!しっかりして…!」

「神よ、この子に…どうか命を…!」

(誰だ…俺を呼ぶのは…俺は…死んだはず…。)


 胸に重みを感じる。共に倒れた仲間かと思い、薄く目を開けた。

そこには、暖かな光――見知らぬ天井があった。


「……ここは…俺は、生きて…?」

「おおっ、トシ!!気が付いたか!!」

「トシ!!」


 声の方を向いた瞬間、視界が遮られ、やわらかすぎる感触が顔を覆った。


(な、なんだ…苦しい…!)

「落ち着け、ハオ!気持ちはわかるが、窒息してしまう!」


 男性の声が響いたかと思うと、更に息が苦しくなった。どうやら女性もろとも自分を抱きしめているようだ。


「よくぞ戻った、我が息子よ!さすがはバラガー家の長男だ!」

(は、離せ…息が出来ない…!)


 必死にもがくが、体に力が入らない。このままでは…!


「は、伯爵様!奥方様、お気持ちはお察しいたしますが、このままではトシ様が……。」

「おお、先生!!」


 漸く解放された歳三は、そのまま女性の腕の中で、ぐったりとしてしまった。


「トシ!?大丈夫!?」

「先生が最後まで諦めずに蘇生を試みてくれたお陰だ!!ありがとう!!」

「あ、いえ、私は…」


 逞しい男性が“先生”と呼ばれた、痩せた男性の両腕を取って大きく振る。二人の身長差は大きく“先生”は足が宙に浮くほど上下に揺さぶられていた。


(…な…なんなんだここは…。)


――俺は確かに死んだはずだ。


 だが、今、別の誰かの身体で、確かに息をしている…。

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