第3話 勇者様の、ちょっといいとこ見てみたい!

勇者とリサの二人は村へ戻るため、森の中を歩いていた。


リサは目の前に現れた勇者に興味津々で、矢継ぎ早に質問を投げかけていた。



「勇者様は、何歳ですか?」

「どこの世界から来たのですか?」

「元の世界はどんな世界なのですか?」



勇者はリサの「質問の洪水」におぼれそうになる。



「ちょっと、待って! 一つずつ答えるから」


リサは我に返り、照れたように頬を赤らめ頷いた。




「僕は25歳。日本という国から来た。

その世界は魔法や魔物は存在しないけど、技術が非常に発達している世界なんだ。」


「この世界でも魔術の恩恵を持っているのは限られた人だけです。

大部分の人間は、魔法無しの生活しているから、似ていますね」



確かに生活方法は似ている。

ただ、文明レベルは転生前の日本と比べたら500年位遅れているだろう。

もうしばらく、この世界を見てみたい。



勇者は続けて言った。

「僕の世界では、高速で移動したり、空を飛んだり、家に居ながら世界中の人々と会話をしたり、情報を得ることも出来る。それくらい発展していたんだよ」



リサの瞳は興味という光で輝き始めた。

「全く想像できないです。でも行ってみたいです!とても素晴らしい世界なんでしょうね!」




勇者は顔を曇らせて言った。


「見かけはね。でも実際に住んでみると逃げたくなる世界ですよ。

僕はこっちの世界の方が好きかも…。」



リサは首を傾げている。

勇者の言葉の意味が理解できない。



確かに、見た事が無い世界は魅力がある。

しかし実際過ごしていると闇の部分しか見えなくなる。

そう、僕の様に…。





リサは勇者の表情に気づき、話題を変えた。


「ところで勇者様の能力って、具体的にどのように 『伝説級』 なのですか?」




ーー 伝説級 ーー


この言葉だけで笑顔に戻るのは簡単だ。



少し上から目線の勇者はリサに応えた。

「実際に、僕一人でこの国を亡ぼせるらしいけど、試したこと無いから分からないよね」


「いやいや、試さないでください、今後も。」



「転生する直前、説明を受けたけど、その能力を出すのは少し面倒なんだよね。」


「面倒つて…何それ。」



「だから一番わかりやすい方法で見せよう」





勇者は目の前に片手を伸ばし、指先を横に動かしながら叫んだ。



「魔術ナンバ55-A。

ターゲットポジションエリア、チェック。

エリア、グリーン。

ステータス画面、オーーーープン!」


目の前に小さい光る画面が開いた。





リサは驚いてその画面をのぞき込んだ。

良く見えるようにリサの顔が勇者の顔に近づいた。



リサの流れる様な美しい黒髪が勇者の頬をなぜていく。

その髪から漂う花の様な香りが勇者の心を満たしていく。




おもわず、勇者が赤面し声が漏れてしまった。

「ムフフッ!」



ーー 画面が消えた。




「す、すまない。集中力が何故だが切れてしまった。あれっ、おかしいな?」



心を悟られないように再度勇者は、無言のままステータスを開いた。



「勇者様、先程と違って詠唱を唱えずに開いたのですが」

「あっ、最初は格好つけてやっただけ。普通にすぐ出るよ。ほら!」



勇者を見つめるリサの視線は冷たくなっていた





勇者が表示させたステータス画面を見たリサは驚いた。


レベル:限界突破

攻撃力:9999999

魔力:9999999

魔法適正:全属性レベルMax


称号:伝説の勇者神

称号:ブラック企業の亡霊の慣れの果て





リサは初めて見るステータス内容なので一部しか理解できていない。

だけども、確かに伝説級というのは理解した。

しかし、初めて見る数値。これが一体どれくらい凄いのかさえ分からない。



今までステータスを見た事が無いので比べようがないからだ。

だけど、さっきのスライムの件もあるから、この伝説級勇者というのは、メルトスライムより少し弱い程度?



リサは首を横に振った。

違うはず、もっと強いはずだ。勇者様も国を亡ぼすとか、何とか…。





「それで、勇者様。この『伝説級』の能力を使って、これから何をされるのですか?」



『伝説的』。その言葉を聞いた勇者はさらに鼓舞した。

そして強大なオーラに包まれたその姿で大地に立ち、遠くを見つめて答えた。




「今晩の宿代を稼ごうかと」

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