第15話
ロッテ自身驚いて、思わず口元に手を触れてしまう。
(わたし、何を言って……?)
罵倒というわけではないが――おおよそ、ロッテがアリーシャに向かって言えるようなことではなかった。
「ご、ごめんなさ――」
「わ、私……そんな顔、してる?」
すぐに謝ろうとして、そんな言葉を遮ったのはアリーシャだ。
ロッテの言葉を受けて、アリーシャは先ほどまでの少し余裕のある表情は打って変わり、恥ずかしそうに頬を朱色に染めて俯く。
押し倒してほしいと言いながら、その実は余裕なんてなかったようだ。
そんな姿を見て――ロッテの中で何かが弾けてしまう。
ロッテはベッドに膝を乗せて、アリーシャに近づく。
そうして――アリーシャの髪に触れると、そのまま匂いを嗅いだ。
「っ、ロ、ロッテ……?」
「アリーシャ様はいい匂いがしますね」
素直な感想――本当に、いい匂いがする。
騎士の仕事をしていても、手入れはよくしているのだろう。
アリーシャの美しい髪に触れているという事実に、ロッテは喜びすら感じていた。
「そ、そう?」
「でも、少し汗の匂いもします」
「っ」
不意に出たロッテのそんな一言――アリーシャは先ほど動いてきたばかりで、着替えもしていない。
騎士の仕事はいわゆる肉体労働も多いため――汗くらいはかくだろうし、それをわざわざ指摘するような人もいない。
むしろ、汗水流して人々を守ってくれる騎士には敬意を表しているくらいだ。
だが――今の状況では少し意味合いが変わってくる。
アリーシャはきっと、汗の匂いなど気にしていなかった。
実際、それほど気にするような匂いはしない――ロッテからすれば、いい匂いだと感じるくらいなのだから。
ただ、そう指摘すればアリーシャに羞恥を感じらせられるのではないかと思った。
それは正解だったようで――言葉にされると、やはり恥ずかしさが増すのだろう。
アリーシャは途端に動揺した様子を見せる。
「さ、先にお風呂に入らないといけなかったわね! すぐ行ってくるから――」
そう言って立ち上がろうとするアリーシャを、ロッテは無理やり押し倒した。
手を押さえつけるようにすると、バランスを崩して、アリーシャは仰向けになる。
「ロ、ロッテ! 何を……!?」
アリーシャはすぐに起き上がろうと抵抗するが――ロッテは逃がさない。
まともに正面から抵抗されたら、ロッテがアリーシャを押さえつけるなどまず不可能だろう。
だが、辺境育ちのロッテは幼い頃から力仕事もよく手伝っていて、一見すればか弱い少女だが体力的には他のメイドよりも優れている。
少なくとも――ベッドで押し倒してしまう状況になれば、アリーシャと言えど簡単には抜け出せないのだ。
「ちょ、ちょっと、いったん待って」
アリーシャは慌てた様子で、必死に逃げ出そうとする。
ロッテはそんなアリーシャの抵抗を許さない。
やがて、馬乗りになるような形になった。
「あんまり暴れないでください」
「ま、待ってって言ってるでしょう……!」
「アリーシャ様が言ったんじゃないですか。押し倒してほしいって」
「言ったけど! その、汗を流してからの方がいいと思ってっ……」
どうにか抜け出そうとするアリーシャを、ロッテはさらに強く押さえつける。
大きく暴れるようではないが、やがて二人の身体は重なって、アリーシャの額には少し汗が滲んだ。
「どうせ押し倒すことになったらまた汗を流すことになりますよ。だって、こんな風に抵抗しますもんね? でも、どうしても汗を流したいって言うなら、わたしをどかせばいいだけ ですよ」
「っ、こ、の……っ」
ロッテの煽るような言葉を受けて、アリーシャは必死の様相を見せる――けれど、アリーシャは起き上がることができない。
屈強な盗賊を軽々と倒し、魔物の討伐を日々行っているあのアリーシャが――ベッドの上ではロッテに勝てない。
ロッテはそんなアリーシャを見て、妖艶な笑みを浮かべる。
そして――アリーシャの耳元で囁くように言った。
「姫騎士なのに、たかがメイドに力負けするなんて――恥ずかしくないんですか?」
「……っ!」
アリーシャの必死だった顔は、さらに赤く染まる。
騎士としてどれほどの鍛錬を積んできたのだろう――この国を代表するほどの実力を身に付けるのは、並大抵のことではない。
それこそ、ロッテが想像もできないほどの血の滲むような努力があったはずだ。
そんな彼女が、一介のメイドでしかないロッテに押し倒され、ろくに抵抗もできない。
ただその事実を指摘しただけのことだが、アリーシャにとってその事実はたまらなく屈辱であった。
それこそ呼吸が荒くなって、目に小さく涙を浮かべるほどに。
メイドに勝てない悔しさがそうさせたのか。
(アリーシャ様……可愛い)
そんな姿を見て、ロッテはそんな気持ちを抱いてしまった。
押し倒されて、抵抗しても起き上がることができず――悔し涙を流すアリーシャに、だ。
だが、これはアリーシャの望んだことだ。
ロッテは何も間違っていない――そう思っていたのだが、ロッテは不意に我に返ってしまう。
「――」
そうして、ロッテはすぐにアリーシャの上から飛びのいた。
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