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ぜろ
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ねぇ、
流れ星が願いを叶えてくれるのは嘘ですか。
努力も無しに、願いを叶えようというのはそんなに傲慢な発想なのでしょうか。
「…イル…」
「…ウチに…」
「衣琉」
「ウチに、帰りたい」
儚い願いですか。
そんなにも儚い願いですか。
そんなに、
幸せになりたいという願いは、
おこがましいのでしょうか。
ホントはずっとね、
誰かに助けて欲しかったの。
でもね、言えなかったの。
完璧であることをやめてしまったら、きっと君達はいなくなるでしょう? それを怖れるから、だから、ずっと、言えなくて、結局…
…結局。
…ウチに帰りたい。
けれど、
僕には何所に家があるのか判らないんだ。
※
「あ、すみませんっ! 日本まではあと何時間ぐらいになります?」
「あと二時間ほどになりますよ」
「アリガトウございますっ…だってさ、クリス」
「…楽しみだな、イルから話を聞いてた人達に会えるなんて。私、瀬尋君というヒトにはずっと逢いたいと思っていたんだもの。早めにパスポートを取っておいて、本当に良かったわ」
「えー、ナルナルにぃ? すわっ、物好きっ」
「だって、彼のことを話している時のイルはいつも嬉しそうでしょう? だからきっと、とても居心地のいい人なのだろうな、って。だからね」
「嬉しそう…? そ…かなぁ、確かに居心地はいいし落ち着けるヒトではあるんだけれど、僕、ナルナルについてはどっちかってゆーと———うーん…」
「あ…そうだわ、私結局あなたがイギリスへ留学に来る前の事件で最後の一つだけ知らないのだったわね。退屈凌ぎにでいいから教えてくれないかしら? あなた、コレに関しては口を噤みっぱなしなんですもの」
「…語り…きれるかなぁ、自信はないよぉ?」
※
…夏はあっという間に過ぎ去るものでして。
色々あってちょっとした臨死体験なんてモノまで経験できたあたしの夏は、夏休み同様終わるととても短かったものだと思える。そしてその中で経験した他の事だって、かなり…なんというか、大した事がなかったように思えるから不思議だ。こういう思考回路だから、あたしは進歩が無いってナルナルにも言われちゃうんだと思う。判ってるんだけれどこのオプティミスティックな自分だけは変えたくないんだよね。
…たとえ、他のどんなものが変わり果ててしまったとしても。
あたしは水原倭柳。
ついでに物部衣琉。
二つの名前を持っているちょいと特殊な境遇で育ったあたしは現在十二歳の中学一年生。成績は普通、運動神経も普通、容姿はチビッコなところを引き抜けば———普通。
そんで、そーやって普通って見せかけるのが趣味。これでも知能指数はそれなりにあるし、学校外で実施されるテストは大体上位に食い込む実力がある。ただそうやってプラスでもマイナスでもずば抜けると色々とやっかみを買うのが、あたし達の生きる世の中のお約束でして…ゆえに趣味と実益を兼ねて、普通ゴッコをしているのだけれど。
疲れないかって? そうでもない、隠し事をするのは慣れていることだからね。
あたしは今暮らしている家庭に養子で入っていて、そのことを自分でも知っている…覚えているのだけど、忘れたフリをして、『一般的な家庭で育った普通の子供』を装って生きてきた。あたし達の社会は異端に対して極度に厳しいから、どんな不可抗力なことだとしても普通で無いコトは隠したほうが得策だからだ。
そう、隠し事が今更一つや二つ増えたって全然苦しくなんかない、平気なんだよ。あたしは嘘をつく事に罪悪感を覚えなくなってきているんだもの。
人から物を奪うことで自分の居場所をもぎ取ってるんだものね。
そう、
あたしは———泥棒。
敵は———父親。
あたしのちょいと妙な境遇というのは、とある有名コンツェルン直系の血を引きながらも現在は極々普通の家庭に養子に入っていることと、
妙な家業を押し付けられていること。
その家業が泥棒…というのじゃない。家業のために副産物として出来てしまったのがこの泥棒という行為なだけであって、実際の仕事というのはいわゆる…いわゆるなんというのかよく判らない、『祓い師』ってモノだ。
モノにとり憑く邪なる物を取り除くのが、仕事でして。
けれどその呪遺物がいろんな場所に散ってしまって…ソレを集めるには合法非合法の区別はつけていられないというわけで、結局盗むという強硬手段に出ているのだ。
悪いコトだってのは、
判ってる。
『なんとかしなくちゃならないから』なんていうコトで理由付けをして、自分の行為を正当化しようなんて思ってないよ。自分のしている事の意味ぐらい知ってる。哀しむヒトがいることも、困るヒトがいることも、よく判ってる。どんな大義があったとしても、犯罪を正当化なんて出来ない。
…『犯罪だから我々が非難するのではなく、我々が非難するからそれは犯罪なのだ』って言葉がある。
誰もが非難するよね、泥棒なんて行為は。
あたしも非難する。
だからあたしは、咎人。
大義があるならそれを顕して、正々堂々と行動を起こせばよかったのに。…なのに、それじゃ世間は納得しないご時世。納得しない、被害者。
それを納得させてる時間も手段も無いという事で、出てるのが結局強硬手段なんだから…結局は五十歩百歩の争いよね。
この世界は機械や科学の発達で、人の心が物体や身体に及ぼす被害を忘れてしまっているから…。
いつミカエル様の制裁…雷光が落ちてくるか判らないところをウロウロしている。あまつさえ他人を複数捲き込んで、その地獄行きの列車に乗り込んでしまったんだから。
まぁいいか、っていう楽天主義で。
オプティミズムを抱えてなくちゃ、やってられないワケで。
…呪遺物に更に呪いをかけて、わざわざ日本に送ってきてる人間がいる。ソイツの真意はあたしにもわからないけれど、それを祓うたびにあたしには噛合い難いパズルピースが齎される。…結構、迷惑。
モノにとり憑く念や式を祓うたびにそのものが過ごしてきた間のコト…記憶っていうのかな、それを見せつけられてしまうのがあたしの特殊能力らしい。『物部』と言う名字は『物述べ』の隠し名で、意思無き物の声を聞く者の証らしいと聞いてる。あたしは術を使うことで自分に齎される因果の力をある経路で循環させ、『モノの記憶を見る』っていう力に落ち着かせているらしいのだ。そうするコトで、因果の力に拠る応報を回避している。
その力で何度も見せつけられる記憶は繋がらないパズルピースで、あたしには何を意味するのかわからない。わからないことばかりだ。
だから、逆にしっかりとわかってることはホントに少ない。
ソイツがあたしの父親だということ。
あたし、もしくはあたしの家系———宇都宮家を恨んでいるらしいこと。
実は凄い術者だって、コト。
父親と言っても会ったこと無いし、別段悲劇的なことは思わないけれど。
でもね、こうも毎回毎回妙な術をかけられてると…つらいもので…
ロクな自由時間無くて、遊びにも行けないし。イロイロと仕事のことばっかりにかまけてる時間も多くて、何所でも笑えたはずの自分が作り笑いするのに気付く。
けれど満足して無いわけじゃないの。
居心地のいい人は、いつでも側にいてくれるからね。
そうでしょジル。
そーだよねナル。
大丈夫だよ、キョウちゃん。ヨウ、ヨル。
ちゃんとそこにいてね。ちゃんと側にいてね。あたしの側にいてね?
お願いだから、そこに、側に、いてくれるだけで———
僕達に家は無い。
でも仲間がいるからいい。
それでいいんだ。
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