第4話 倉庫街・第七倉庫 午前零時三分

閃光のあと、鉄骨が軋む音とともに天井の一部が崩れた。

煙が立ちこめ、視界が真っ白になる。


「伏せろ!」

黒田の声が再び響いた瞬間、蓮の腕を何かが強く引いた。

身体が地面に押し倒され、直後に銃声が続く。

鉄の柱に弾丸が当たり、火花が散った。


「黒田――!」

咳き込みながら顔を上げると、黒田翔が遮蔽物の影に身を隠しながら拳銃を構えていた。

黒いジャケットに、夜気で濡れた髪。

その瞳には、数年前と変わらぬ冷静さと、何かを背負うような痛みが宿っていた。


「説明はあとだ! 出口まで走れ!」


蓮はうなずき、黒田の背に続いた。

銃声、足音、風の唸り――倉庫の中の音が混ざり合い、現実と悪夢の境が消えていく。

神谷の部下たちが散開し、懐中電灯の光が霧のように揺れる。


黒田は腰のポーチから小型の装置を取り出し、扉のパネルに押し当てた。

低い電子音のあと、ロックが外れる。


「行け!」

蓮は息を詰めて外へ飛び出した。

夜の港の空気が冷たく肺に突き刺さる。

背後で再び銃声――そして、黒田の短い呻き声。


「黒田!」


振り返ると、黒田は肩を撃たれ、壁に身を預けていた。

だがその手には、例のペンダントが握られている。

血で濡れた手が、それを蓮に押し付けた。


「これを……お前が……“真実”を出せ。」


「黒田、待て! 一緒に――」


黒田は首を振った。

「俺はもう……抜けられない。だが、お前は違う。奈央のために……走れ。」


蓮は一瞬だけ迷い、唇を噛み締めると、霧の中へと駆け出した。

背後で爆発音。倉庫が赤く燃え上がり、神谷の怒声が風にかき消された。


ペンダントを握る手の中で、金属の感触が冷たく光る。

中にあるメモリカード――

そこには、何が記録されているのか。


走りながら、蓮の頭の中で奈央の声が蘇った。

『ねぇ蓮、真実って……本当に誰かのためになるのかな。』


夜の闇が深まる。

それでも蓮は走り続けた。

燃える倉庫を背に、霧の海へ。

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