アストラリス:ノートと影


アストラリスの食堂には、食欲をそそるさまざまな香りが漂っていた。壁の時計は正午を示しており、昼食の時間だった。広間は生徒たちでいっぱいで、それぞれの席に整然と座り、すでに料理を食べ始めている者もいれば、注文を待つ者もいた。


その喧騒の中、ミラは昼食を楽しんでいた。彼女の前には、熱々のスープと取ったばかりのパンが置かれている。


「はあ…めっちゃお腹空いた!やっと食べられる…今日はユキ先輩との魔法の練習もあるし、よし!力つけて魔法もっと上手くならなきゃ、よーし!」

と、熱心にスープを口に運びながら、心の中で叫んだ。


そのとき、誰かが近づいてきた。


「ミラちゃん!」


振り向くと、前に立っていたのは、ツインテールに眼鏡の女子生徒。顔は真剣そのものだった。


「え…あなたは誰?」ミラは慎重に尋ねた。


「ちょっと失礼だけど、ミラちゃん…昨日から授業のノート、全然取ってないでしょ?」と、彼女はきっぱりと言った。


「はっ…なんでわかったの?」ミラはスープを飲みかけて驚き、むせそうになった。


「だって、私、隣に座ってたんだもん。あなたが見てなかっただけでしょ!」


「ご…ごめんなさい、気づかなくて…」ミラは小さな声で答えた。


「はあ…はい!」彼女はすぐにノートを差し出した。


「これ、なに?」ミラは紙を受け取りながら尋ねる。


「私…ただ助けたかっただけなんだ!」そう言うと、彼女はノートをミラの机に置き、すぐに背を向けて走り去った。


「えぇ…待って?!」ミラが呼び止めるころには、もう彼女の姿は遠くへ。


「ノート、忘れずに書くんだよ!」走りながら声が届く。振り向くことはなかった。


ミラはしばらくノートを見つめ、かすかに笑みを浮かべた。

「…わぁ、あの子、優しいな。」


昼食が終わると、ミラはノートを持って立ち上がり、魔法の練習のために急いで向かった。数分後、彼女は旧講堂に到着した。そこにはすでにユキナが待っていた。


部屋の中で、ミラは氷の魔法を制御しようとする。まだ安定はしていないが、進歩はあった—ターゲットにほぼ当てられるようになっていた。


「ふむ!いい感じだね。練習の成果、ちゃんと出てるよ。」ユキナは微笑みながら褒めた。


「えへへ、まあまあかな…」ミラは少し恥ずかしそうに答えた。


数分の練習の後、二人は講堂を出た。しかし、ミラがユキナの後ろを歩いていると、視界の端に何かを捉えた。黒く大きな影、恐ろしいオーラを纏い、彼女たちをじっと見つめているようだった。ミラは反射的に振り向こうとしたが、その影はすぐに消えてしまった。


後ろをちらっと見たユキナは、ミラの慌てた表情に気づき、心配そうに声をかけた。


「ミラちゃん、大丈夫…?」


「ええ…大丈夫、先輩。」ミラはかすかに笑い、落ち着かせようとした。


二人は歩き続け、ミラはユキナに合わせて少し歩幅を早めた。




学校の長い廊下が目の前に広がる。先ほどの影に怯えていたミラも、ユキナとの軽い会話で少し安心できた。


「はは、そんな感じね!」ユキナは笑い、場を和ませようとした。


そのとき、後ろから無機質な声が二人の歩みを止めた。


「ユ…キ…ナ。」


二人は立ち止まり、硬直した。背後を見ると、リリアナが立っており、精神的に恐ろしい笑みを浮かべている。


「え…リリ…」ユキナは少し震えた声で呟いた。


「ユキナちゃん、どこ行ってたの?」リリアナが近づき、暗いオーラを漂わせる。


「ずっと探してたんだけど…会えなくてね。」リリアナはユキナの前で立ち止まった。


「う、うう…説明できるよ!」ユキナはぎこちなく笑い、状況を落ち着けようとする。


しかし、リリアナは突然ユキナの襟を掴み、そのまま連れ去った。


「ごめんね、ミラちゃん。ちょっとユキナが必要なの。」


「ひぇー、ばいばい、ミラちゃん…」ユキナは涙ぐみながら叫ぶが、体はリリアナに引かれていく。


ミラはただ見つめることしかできず、一瞬立ちすくむ。二人の姿が廊下の先に消えると、ミラは自分の足で歩き始めた。




寮の部屋に戻ったミラは、ベッドに腰を下ろし、体を休めた。昼間、食堂で渡されたノートを見つめる。


「よし、早く写さなきゃ…明日返さないと。」と呟く。


だが、彼女の心は、講堂で見た黒い影から離れなかった。


「いったい…あれは何だったんだ…?」


✵つづく✵



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