フェス前②

僕は姉からの『攻撃』を交わしつつ、考えた。

ほのちゃんとの関係は、姉に言うべきだろうか。


僕は仕事を辞め、バンドを始めてから、姉以外の家族と会っていない。

理由は気まずいからだ。

だから姉のリサは、僕にとって今会える唯一の家族なのだ。

その姉に、付き合ったことを報告をすべきか。


答えはNO。


理由は2つ。


まず1つ、僕は家族に彼女を紹介するタイプじゃない。

照れくさいし。

結婚するときに会わせれば良いだろうと思っている。


そして2つ、あれは中学生の時だ。

僕に、はじめての彼女が出来た。


当然ながら、家族の誰にも言っていなかった。

しかし、ある日家の近くで彼女と会っているところを姉に見られてしまった…


それはもう面倒だった。

姉はあろうことか、彼女が僕にふさわしいかどうか見極めると言って、聞かなかったのだ。


僕の携帯で勝手に変なメールを送って反応を伺ってみたり、彼女の素性を探ってみたり。

それで僕はフラれてしまったのだ。


もう大人だからそんなことしないだろう…けど…

それでも不安なのだ。


僕は決意した。

ほのちゃんとのことは隠し通そ…


「そういえばビジン、ほのちゃんと付き合ったことお姉さんに言った?」


あっちゃんだった。

全く悪気なさそうな顔。


姉の目がキラリンと光ったように見えた。


「…?お姉ちゃん聞いてないよ…?付き合った…?ほのちゃんって、このほのちゃん…?」


僕はあっちゃんを睨みつけた。

あっちゃんは小声で言う。


「あれ、言っちゃまずかった?」


姉は僕を揺らしながら言う。


「ほのちゃんと付き合ってるの!?何でお姉ちゃんに教えてくれないの!?ひどいひどい!!お姉ちゃん悲しい!!」


「うるさいな!大きい声で言うな!姉ちゃんに言うと面倒だからだよ!!!」


「面倒って何?中学の時の彼女との仲を邪魔しちゃったこと!?」


「だー!言うな!現に今も面倒じゃん!!」


菜奈さんが割って入ってきてくれた。


「まあまあ!リサさん落ち着いてください!」


姉は菜奈さんの両肩に手を置き、言った。


「菜奈ちゃん!だって…だって…」


菜奈さんはバカ姉貴を優しく抱きしめた。

姉は言葉にならない言葉を吐いている。


しばらくして、落ち着きを取り戻した姉は、僕とほのちゃんにおそるおそる聞いてきた。


「そのー…二人は付き合っている…の?」


ほのちゃんは頷いた。

姉のリアクションはでかい。


「やっ…やっぱり本当なのね…!」


「だからそう言ってるだろ!バカ姉貴!」


再び、菜奈さんが割って入ってきた。


「ビジン!お姉さんにそんな強く当たっちゃだめだよ!」


「うっ…すみません…つい…とにかく本当だよ姉ちゃん」


「そ…そっか」


姉はしばらく黙ってから言った。


「…おめでとう!」


姉はにっこり笑った。

 僕は照れくささを必死で我慢した。


「あ…ありがとう…」


ニヤニヤしてるあっちゃんには後でしっぺをお見舞いしておいた。

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