バンド名①

それは7月も終わりを告げようとしている頃だった。


ほの「バンド名を決めませんか?」


スマホの通知を開くと、早速あっちゃんが反応をしていた。


アオイ「良いね!まだ決めてなかったもんね!」


バンド名か。

確かに初めての曲も出来上がったことだし、そろそろ考えても良いかもしれない。


どんなのが良いだろうか。うーん…


作詞が出来れば、思いつきそうなものだが、また少し別物らしい。


それからは、僕は新曲の作詞と並行して、バンド名を考えることにも取り組んだ。

自身の好きなバンドからヒントを得ようとしてみたり、4人の共通点を考えてみたり…


そうこうしている内に、バンド練習の日がやってきた。


バンド名とは裏腹に、作詞の方は好調だった。


『無難』に続く2曲目、3曲目の歌詞が完成し、今日バンドで合わせる予定だ。


メンバーの反応も悪くなかった。

いや、むしろ良かった。

自分の心の中でも過度に謙虚なところも直していきたい。


とにかく、曲作りが順調な今、4人としてもバンド名を決めたいところだった。


そこでミーティングを開くこととなった。

いつもの居酒屋で。


「バンド名…どうしましょうか…」


乾杯の直後、ほのちゃんが呟いた。


「う~ん…」


他の三人が口を揃えて唸る。

どうやら誰も良いアイディアが浮かんでいないらしい。


「何かこうバンドの特徴とかを一言で表せないかな…」


菜奈さんがグラスを傾けながら言った。


僕の頭の中にとある光景がフラッシュバックした。

それは初めて僕の家でほのちゃんの曲を聴いた時だ。


僕は息を吞んでいた。


それは彼女が現役時代の頃からそうだった。

彼女のライブでは観客が息を呑む様に、静まるのだ。

その歌声を聞き逃さない様に。


「The Breath Takers …」


僕はそう呟いた。


「ん?」


あっちゃんが聞き返す。


「The Breath Takers ってどうですか!?英語でBreath Takingって『息を呑むような』って意味なんですけど!それをもじって『The Breath Takers』です!ほのちゃんがボーカルのバンドにピッタリかなって!」


「なるほど…『息を呑ませる者』ね…ちょっとキザだけど良いと思う!」


さすが菜奈さんは理解が早い。


「素敵だね!良いんじゃないかな!」


あっちゃんも続く。


ほのちゃんの耳は真っ赤だ。

菜奈さんがその様子を見て、こう結論付けた。


「ほのちゃんも良さそうね。じゃあ私たちはこれから『The Breath Takers』ね。」

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