作詞⑤

2回目のスタジオ練習、僕はバンドメンバーの視線を釘づけにしていた。

それもそうだろう。


髪を真っ赤に染めてきたのだから。


あっちゃんが口火を切る。


「その髪、どしたの…?」


「俺は変わったんだ…」


作詞を終えてから、僕は物凄い解放感に浸っていた。


自分は殻を破ったのだ!

これからはバンドの凄腕ドラマー兼、敏腕作詞家としてやっていくのだ!


これまでの人生で体験したことのない調子の乗り方だった。

気づいたら、赤髪にしていたのだ。


菜奈さんは珍しく驚きを隠せていない。


「まあ…なんと…」


ほのちゃんは笑っている。


「やっぱり先輩は面白いです…」


僕は両耳が髪と同じように真っ赤になっていくのを感じた。

そして、全てをかき消すように大きな声で言った。


「さあ!練習しましょう!」


肝心の曲『無難』は最高だった。


バンドメンバーはあえて何も言わなかった。

しかし、演奏が始まるとすぐに分かった。


ほのちゃんの歌い方が違う。

バンドメンバーの表情が違う。


ようやくバンド初めての曲が完成したのだった。

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