結成③
スタジオに入るのは久しぶりだ。
ほのちゃんとあっちゃんはギターの、菜奈さんはベースの準備を始めている。
僕はドラムセットの前に座る。
懐かしい。
久しぶりだから不安だったが、身体は覚えている。
自分の叩きやすいようにセッティングを始めた。
「あー…あー…」
ほのちゃんがマイクのテストをしている。
そうだ、歌詞だ。
僕は感想を聞こうか迷った。
なんか今聞くのってダサいかな?
もっと、どっしりしておくべきだろうか?
そんなことを考えていると、ほのちゃんがマイクを通して言った。
「やりましょうか…」
聞きそびれた…
「皆さんにはあらかじめ私の録音を渡しておきました…それを元に各パート考えてきて頂いたと思うので、まずは合わせてみようかと思うのですが…大丈夫でしょうか?」
あっちゃん、菜奈さんがOKを出す。
僕は歌詞のことで一杯の頭を縦に振った。
「では…先輩カウントお願いします…」
僕はドラムスティックを叩きながらカウントをした。
「1,2,3,4…」
演奏が始まる。
久しぶりとはいえ、流石はバンドサークル出身者たちだ。
何とか形になっている。
肝心の歌詞だが、ほのちゃんは完璧に歌い上げてくれた。
自分が必死に考えた詞がメロディーに乗っているのを聴き、少し感動を覚えた。
気になるのは、皆の感想だ。
どの様に響いただろうか…
演奏が終わるとしばらくの沈黙が流れた。
それを破ったのはあっちゃんだった。
「これ歌詞って誰が書いたの?」
「あ…俺…です…」
僕はおそるおそる名乗り出た。
「なんか…」
あっちゃんと菜奈さんは声を揃えて言った。
「無難…」
ショックだった。
無難という評価もそうだし、ほのちゃんの期待に応えられなかった。
ほのちゃんの方を見ることは出来なかった。
そこからはあっという間だった。
歌詞にはそれ以降一切触れずに、ひたすら演奏面をブラッシュアップしていった。
僕のドラムの腕前は錆びついてはいたが、段々と感覚を取り戻し、最後の方は納得のいく演奏が出来た。
菜奈さんのベースは相変わらず上手だし、ほのちゃんの歌もやはりすごかった。
少し驚いたのがあっちゃんで、大学時代も上手だったが、かなり上達していた。
兎にも角にも、こうして初のスタジオ練習は終わったのだった。
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