二十夜 モーニングを食べニャイト

 港街牧場。


 にゃるほど。店の裏が小高い丘になっていて、広大な牧場が広がっている。その向こうは切り立った崖になっており、見渡す限りの海と空が見える。いいロケーションにゃ。

 つまり新鮮にゃ牛乳がいつでも手に入るわけにゃ。これは期待出来るにゃね。


「モーニングのフレンチトーストセットをふたつ⋯⋯いや、みっつ頼むにゃ。飲み物は全てホットミルクにゃ」

「かしこまりました」


 可愛らしいユニフォームの店員さんは、注文を繰り返して確認すると、お辞儀をして厨房へと向かった。


「テンテ、ふたつも食べるにゃか?」

「すぐにわかるにゃ」


 同時に店の入口に大きな猫の影が現れる。


 カランコロンカラン♪


「こっちにゃ」

「ああ、ノックスさん、おはようございますにゃ」

「テンテ、この方はどちら様にゃ?」

「今日乗る馬車の馭者を務めてくれるオルガにゃ。オルガ、こっちは見習いのクリスにゃ。よろしく頼むにゃ」

「この若さでノックスさんの見習いとは凄いですにゃ」

「いえ、まだ駆け出しですにゃ。本日はよろしく頼むですにゃ」

「ふたりとも気難しいのや堅苦しいのは抜きにゃ。気楽にいくにゃよ」

「「はいにゃ!」」

「さあ、メシでも食うにゃ!」


 店員さんが三人分の料理をカートに乗せて運んでくれる。先ず温かいミルクを配り終えると、それぞれの皿をそれぞれの前に並べ、カトラリーを置いたにゃ。メニューの確認をして、お辞儀をする。


「ごゆっくりどうぞ」


 運ばれて来たのはフレンチトースト。先日食べた『ジオジオ』のパン屋の山食を厚切りに切ったものを、卵液に浸してこんがり焼き上げたものを、カリッカリにキャラメリゼしたものにゃ。

 にゃんて⋯⋯。


「にゃんて凶悪な見た目にゃ! 暴力的な美味さが見るだけで伝わって来るにゃ!! そしてこのホットミルクにゃが、まず香り! この香りはグラスフェッド(牧草のみで飼育)ミルクじゃなきゃ出せにゃーにゃ! ノンホモ牛乳(均質化してない牛乳)と言うことはもしかしたらと思ったにゃが、ビンゴ! このこってりとしたフレンチトーストによく合うにゃ。さっぱりとした口当たりなのに、濃厚な旨味を含んだ味わいが期待出来るにゃ!」

「⋯⋯??」

「言ったにゃろ。難しいのは抜きにゃ! ほら食えにゃ!!」


 首を傾げるふたり。どうやら難しいのは俺だったにゃ? 黙って食うにゃ。


 ナイフでカリッカリの表面の硬質な部分を割ると、パンの耳はサックリ受け止めて、そのあとはたっぷりの卵液が染み出してくる。その中にバターの香りがするところ、焼き上げるときに牧場の新鮮なバターがたっぷり使われているにゃ。


「──────っまい!!」

「にゃふぁぁぁ⋯⋯うみゃいですにゃあ」

「こんな⋯⋯アジトのキティたちにも食わせてやりてぇにゃあ⋯⋯」


 孤児院の皆にもにゃ。


「食わせてやりゃあいいにゃ。これ食ったら行くにゃよ」

「ノックスさん、本当にその軽装でスカラベ山へ行くんですかい? 俺もそんにゃに詳しいわけじゃにゃーんですが、それにゃりの魔物が出るって聞いてやすぜ?」

「だから俺に依頼されたにゃよ。オルガ、お前を連れてゆくのもクリスを守って欲しいからにゃ」

「え? 名指しの依頼にゃんですかい?」

「ああ、俺は薬草採集がしたかったんにゃが、依頼主のジジイが採集系の仕事を根こそぎ買い取ったにゃよ。この依頼を俺に押し付ける為ににゃ」

「とんでもない爺さんですにゃ」

「そうにゃ。それにオマケの依頼があるにゃ」

「と、言いますと?」

「カトブレパスの瞳って解るかにゃ?」

「俺なら断る依頼ですにゃ。⋯⋯まさか受けたんですかい?」

「⋯⋯まあな。べつに馭者、おりても良いんだぜにゃ?」

「さーせん、お付き合いしますにゃ。その名前を聞くと尻込みしてみゃーですにゃ」

「カトブレパスにゃ?」

「ああ。あっしが騎士団に入りたての頃、討伐依頼があったにゃが、一個中隊ごと壊滅状態に遭ったにゃ。俺は新人だったので離れて観てたのが幸いしたにゃが、あれはヤバい魔物にゃ」

「それは隊長が悪いにゃ。対処の仕方を知っていたらそんなに脅威ではにゃいにゃ」

「え⋯⋯倒したことがあるんですかい?」

「あるにゃよ?」

「クリス、こいつの底が知れにゃーにゃよ。あんたのお師さん、どこで拾って来たんにゃ?」

「ウルメの町にゃ」

「俺をその辺で落ちてるゴミみたいに言うにゃにゃ。それよりオルガ」

「はいにゃ」

「基本的に道はお前に任せるにゃが、遠回りしてもいい、にゃるべく平坦で魔物が少にゃそうな道を選択してほしいにゃ」

「わかったにゃ。しっかりと休んでほしいにゃ。多少の魔物にゃらば俺ひとりでにゃんとかしてやるにゃ」

「はは、頼もしいにゃ。にゃが無理はしにゃいでくれにゃ」

「テンテ、ボクもついてるにゃ」

「クリス、お前が戦闘に加わらにゃければにゃらにゃい状況にゃら迷わず俺を起こせにゃ。これは命令にゃ」

「わかりましたにゃ!」


 よし。

 少しは眠れるにゃろうか?




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