十七夜 解放しニャイト

 ホー。


「クロウ、助かったにゃ。応援頼んで良かったにゃ」

「お安い御用じゃて。ひとつ貸しじゃがの」

「わかってるにゃ。にゃが、貸しついでに修道院まで運んでほしいにゃ。さすがに疲れたにゃ」

「ほほほ。わかっておるわい、任せておけ」

「助かるにゃ」

「無茶しおってからに⋯⋯」


 バサッ!


 クロウは大きな翼をめいっぱい広げると、軽く地面を蹴って俺の肩に乗ったにゃ。背中に回した革のベルトを掴んで一気に舞い上がる。


 バササッ!


 オルガのアジトの灯が小さくなり、遠くにメルルーサの街の灯が見えるにゃ。そして空の向こうが白んできているにゃ。出発まで少し寝にゃいとにゃ⋯⋯。




 ホー。


「ん⋯⋯もう着いたにゃか。さすが早いにゃね」

「ノックス、修道院はまだじゃ⋯⋯それより、あれを見ろ」


 ⋯⋯。


「ワシは別にスルーしてもかまわんのじゃが」

「あんまり関わり合いたくはにゃいにゃねぇ⋯⋯眠たいし」

「じゃあ──」

「──おろしてくれにゃ」


 ⋯⋯ホントについてにゃいにゃ。


「にゃふふふふ。今宵のオークションは散々にゃったが、夜の女神はボクチンを見捨てにゃかったにゃ。マヌル族の娘は手に入れられにゃかったが、ここでドラゴンファングに出くわすとはにゃ。にゃふふふふ⋯⋯」


 オークション会場にいた仔豚、いや、ブタのようにブクブク太った貴族の仔猫キティ。従者のマントに縫い付けられたトライデントの刺繍。紛れもなくデニャブ王国のロイヤルガードにゃ。


「ボクチンはアレを飼いたいんだにゃ。お前たちん、アレを生捕りにしろにゃ!」

「「「「「はっ!」」」」」


 つまりあの仔豚は王子と言うことににゃるにゃ。迂闊に手を出せば国際問題にゃ。


 ジリジリと崖っぷちに追い詰められるドラゴンファング。本来、あれくらいならゆうに飛び越えられるはずにゃ。いったい⋯⋯。


 ズルル。

 脚を引きずってるにゃ。怪我をしているにゃね。 ⋯⋯ああ、あれか。あれじゃあ、飛べにゃーにゃ。

 成獣にゃら抗うことも出来たかもにゃが、まだ子どもにゃ。猫よりも大きいとは言え、力も経験もにゃい。あの数のロイヤルガードを相手にするのは無理にゃ。


 さて、どうしたもんにゃか。


「クロウ?」

「いや、無理じゃのう」

「そうか、にゃら仕方にゃーで」


 できればデニャブ王国とはやり合いたくにゃい。正体がバレるわけにはいかにゃいにゃ。


 やれるか、俺? 額の汗が頬をつたう。頬に手をやる。ふ⋯⋯女神の加護ね?


「俺には過ぎた加護だぜにゃ」


 俺はアイマスクを着けると『生殺しの爪』を装着した。


「にゃふふふふ。ボクチンの愛玩魔物ペット.モンスターのコレクションが増えるにプギャ────ッ!!」


 従者たちの視線が俺に向けられた。


「ニャハハハハハハ! 暗雲たちこめるところに月光あり! 怪傑マーベル参上! 異国の戦士たちよ! そのモンスターを解放したまえ! さもにゃくばこの仔豚がどうなっても知らにゃーにゃ!!」

「「「「「トンマージ殿下!!」」」」」


 悪手にゃのはわかってるにゃが、もう考える頭もにゃーにゃ。手っ取り早く行くにゃよ。


「プギャー! プギャー! お前たち何をしてる、早くこの者をやっつけろにゃ! ボクチンを助けろにゃ!! ピギャッ!?」

「ブーブーうるせーにゃ。動いたらあぶにゃーにゃ、さあ、どうするにゃ!? 武器を捨ててモンスターを解放するか、この仔豚を八つ裂きにするか選ぶがいいにゃ!」


 ガチャチャチャ⋯⋯


 趣味の悪い金ピカマントの従者が武器を捨てて左右に分かれると、恐る恐るドラゴンファングが間を縫って出た。


「おいお前、言葉がわかるにゃらこっち来いにゃ」

「グル」


 ⋯⋯本当に言葉を理解しているのか、もしくは心を読んでいるのか。いづれにしてもこちらに歩み寄るドラゴンファング。


「じっとしてろにゃ」


 俺はドラゴンファングの脚に刺さった矢を引っこ抜く。


「グアッ!!」


 そして最後のポーニャンをふりかけた。


「少し経てば歩けるようににゃるにゃ。こんにゃところでウロウロせずに遠くへ逃げろにゃ」

「ガルル⋯⋯」


 にゃんて言ったかは知らにゃーが、こちらの言葉は通じてるはずにゃ。


「おいお前! ワンコロは解放されたんにゃ、ボクチンも解放しろにゃ!!」


 図々しい仔豚にゃ。


「おい豚。コイツは解放されたんにゃ。お前を解放しても良いが、コイツはお前に恨みがあるようにゃ」

「ガルルルルルルル⋯⋯」

「ピギャ!? よ、寄るにゃ! おいお前、コイツをどっかへやれにゃ!! ボクチンは国に帰るんにゃ!!」

「そうか。おいドラゴンファング、こんな豚食べたら腹を壊すにゃ。さっさと何処へでも行けにゃ」

「⋯⋯グル」


 ドラゴンファングは俺の匂いをスンスンと嗅ぐと、森の奥へと消えた。

 もう、捕まるにゃよ?


 さて。


「いいだろう、とっとと国へ帰れにゃ!」


 俺は豚を解放するとロイヤルガードの元へと駆けていって、転んだ。


「おお、転がる転がる。よく転がるもんにゃ」

「トンマージ殿下!」

「くっ、お前たち、なにをボサっとしておるにゃ! ヤツはひとりにゃ! 殺せにゃ!!」


 こんの豚野郎!




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