4-2
「あれ?! みんないなくなってるじゃないか!」
戻ってきたクラッシュが素っ頓狂な声を上げる。
「じゃあ新人くんへのオリエンテーションでも再開するか。こっちが武器庫、こっちに通信機器があってー……」
クラッシュが続々と隠し扉や隠し戸棚を開けて新人を案内していると、レディが声を掛けた。
「クラッシュ。ジョンソンが予定外の動きを取ってる。武器の取り引き関連で何かあるのかも。新人くんと一緒に尾行してくれる?」
「了解」
クラッシュはすぐに身を翻す。機敏な動きに新人は付いて行くので精一杯だ。
「これを持て。それで、これは昨日と一緒で耳の中に着けて、こっちは襟に付ける」
次々と渡される道具をわたわたと受け取り身に付ける。内ポケットに拳銃、耳には通信の受信機、襟の外側にカメラ、内側にマイク。
「行ってくる」
あっという間に準備を終えレディに朗らかに声を掛けるクラッシュに倣った。
「い、行ってきます!」
レディは部屋を出て行く二人にちらりと視線を遣し、返事をする。
「行ってらっしゃい」
通りへ出れば、レディからの通信が入った。
〈クラッシュ。ジョンソンは車に乗って五番街を北上しているわ。グレーのテスラ・モデルYよ〉
「死ぬほど多い車種じゃないか。車の趣味はつまらない男だな」
クラッシュが毒づく。
〈個人の所有車じゃなくただの社用車でしょう。目立たないのは理に適ってる〉
「レディはいつだって正論だな」
冗談だよ、と呟きながら、クラッシュは身振りで新人に付いてくるよう促した。通りを見渡す。
「この辺は渋滞してるな。レディ、地下鉄を使う」
〈了解。今、八十五丁目を通過したところよ〉
「行こう」
クラッシュが新人に声を掛け、地下への階段を降りる。一分と待たずに電車が到着し、乗り込んだ。
「ニューヨークってすごい。こんなに電車の本数が多いんですね」
新人は息を切らしながら呟く。クラッシュの足が長いので、駆け足の彼に付いて行こうと思うと自ずとダッシュすることになるのだ。
「私の地元なら三十分は待ちます」
クラッシュは声を上げて笑った。
「ニューヨークは市内のほぼ全域に路線が通ってるから、移動するなら車より地下鉄を使う方が速いな。すぐ渋滞するし。まあ、今日は新人くんが気にするだろうから車を盗らなかったっていうのもある」
「それはどうも」
平日の昼間、車内に乗客はまばらだ。二人はドアの横に立ったまま小声で話し続ける。
「というか、どうやってそんなにしょっちゅう車を『借りて』るんですか」
「ああ、これだ」
クラッシュがポケットに突っ込んでいた手を出す。黒くて丸いプラスチックが握られていた。二つほど小さなボタンが付いている。
「車の鍵?」
「に、そっくりだが違う。スマートキーに対応している車なら、このボタン一つで開けられるNSB特製の道具だ。これで電波を狂わせて、どの車でも痕跡を残さずドアを開けてエンジンを掛けられる。鍵を挿し込まなきゃいけない車以外な」
「こんなに小型で? すんごい発明じゃないですか」
「NSBにはこれ以外にも、この世に発表されているものよりもはるかに優れた技術や発明がある。秘密なんだ、悪用されたら困るからな」
クラッシュはポケットに手を戻した。
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