『短編』私はこの身体で「女優」を演じるの ~悪役にされたって、私は私を生きたい~
寿明結未(旧・うどん五段)
私はこの身体で『女優』を演じるの①
この身体の持ち主、ロザリー・カタリシアは……。
自分の見た目を苦に自殺未遂をした。
……いいえ、彼女は〝死んだ〟と言ったほうがいいわね。
不幸中の幸いか否か。
前の人生で死亡した私がこの身体に入り込んでしまった。
理由はわからない。
西洋文明なんて私の知識には殆どないし、記憶喪失として片付けられた。
さて、冒頭に戻るけれど。
『自分の見た目を苦に自殺未遂をした』とある通り、ロザリーの身体は、この異世界では珍しく太ましい……いいえ、ふくよかな身体をしていた。
それを悪く言う者たちが絶えずいたのだ。
幼い頃から好きで太っていたわけではないロザリーは、散々痩せるための努力をしたわ。
――けれど、痩せられなかった。
どれだけ運動しようと、どれだけ食事制限をしようと、痩せることはなかった。
彼女の記憶を見る限り、どれも栄養士の元で行った。
可笑しなことはなかった。
甘いものを食べ散らかすわけでもなく、好きなデザートだって一ヶ月に一度、小さなケーキを食べるだけ。
そんな涙ぐましい努力をしても、誹謗中傷は止まらなかった。
痩せないことで、親の決めた婚約者は婚約破棄してきた。
それがトドメだったのだ。
(全てが嫌になっての自殺未遂……そりゃ嫌にもなるわね)
姿鏡に映る自分の太ましい身体。
でも、〝たかがそれがどうしたの〟という考えのほうが、私には手っ取り早い。
――この身体……使えるわ。
前世の私も、太ましい身体をしていた。
そのことを悔やんだことも、苦しんだこともあったけれど――。
そんなもの、化粧と衣装、そして心に『女優』を飼うことでなんとでもなった。
――本来の私を愛してほしい?
そんな、あまっちょろい感覚で生きていけるほど、この身体は甘くないのよ。
「テリーザ」
「はい、お嬢様」
「ドレスを見たいわ。見せてくれる?」
「は、はい」
そう言って連れて行かれたドレスルームには、地味な服だらけ。
こんなのどこかに寄付してしまえばいい。
「新しいドレスを作るわ」
「あ、新しいドレス……ですか?」
「ええ、デザインも何もかも自分でね」
私はあらゆる『太ましい』女性の雑誌を買って吸収していた。
それらをまとめれば、なんとかなりそうな気がする。
とはいっても、太ましい女性の服装なんて、そうそうデザインが多いわけではないけど。
でも、産後身体が戻らない女性や、老いて身体がふくよかになった女性に向けたファッションの最先端は行けるはずよ。
ふくよかだから。
太ましいから。
そんな理由で恋愛や結婚を断る男なんて、こっちからノーサンキュー。
このボディとこの顔があれば、ドレスと化粧一つで、そこらの令嬢なんてただの石ころ。
――私は輝く宝石よ。
さぁ、心に『思い描く女優』を作るの。
そして、私はその女優を演じるのよ。
演じる女性はヒロインのようなか弱い女性は似合わない。
強烈な……悪役でなければ。
でも、悪役だけではいずれ終わりが来る。
悪役でありながら、助言をする……大物女優がいいわね。
そう、貫禄のある女優になるの。
そう、前世で言う金髪のあの方とか、特徴的な髪型のあの方とかね。
スゥ……と目を開けてスイッチを入れる。
そう、私はあの方々の女優魂を引き受けし者。
何人たりとも私を傷つけることは最早出来ないわ。
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