嫌われていた竜は、人間として生きていきたい

黒胡鴨

プロローグ

 その日はいつもと違っていて森が燃え火の海になっていた。


 数時間がたった今も燃え広がり一面緑の森だった景色は面影すらなくなっていた。さらには近くにあった町まで火の海に包まれていた。


 森だった場所の奥にある洞窟の前には大きな影があった。


 ――赤竜せきりゅうだ。


 本来、世界で恐れられている存在で最強の魔物の一体と呼ばれており、基本的に人気のない場所を住処にしていた。


 しかし、その場所は数キロ先に大きな町が作られており、旅商人や街を拠点に活動している冒険者達も多く通行するため住処には適していなかった。


 さらに、赤竜の姿はあまりにもひどい状態だった。


 最強の魔物と呼ばれていた赤竜の翼はボロボロになっており左翼は千切れて半分ほどしかなく、強力な武器や魔法でもキズ一つ付かない赤い鱗は傷付き剥がれ落ち、そこからは血が流れだしていた。


 しばらくして赤竜の目の前に少女が現れた。


 少女の服には、大量の血が付いていた。

 

「何故、こ、んな事を…… 」


 赤竜が口を開くと、少女は魔法を唱える。


 すると、少女の目の前に黒い炎で作られた槍が出現する。


 少女はその槍を赤竜の体に突き刺す。

 槍は赤竜の纏っている鱗を容易く砕きそのまま貫き、背中から腹までを貫通する。


「グガァァァ――ッッ」


 赤竜の背中から噴水のように血が噴き出す。


「ごめんね……」


 薄れゆく意識の中、少女のその言葉が聞こえ赤竜は顔を見ると、少女の頬には涙がこぼれているのが見えた。


 しかし言葉を発する力も残っておらず、その光景を最後に赤竜は力尽きた…… 。

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