第34話告白

 突然の呼びかけに、ハッとする。目の前には、顔をあからめた同級生がいた。

「ご、ごめん、なに?」

 今の自分の状況がよくわからなくて、少しずつ記憶を辿る。そうだ、今は卒業式が終わって、この同級生に呼び出されて、学校近くの桜の木の下に呼び出されていたんだ。

「あ、その……じ、実は……私ずっと、海月君のこと、好きだったの!」

 耳まで真っ赤にして、突然のカミングアウトをする同級生に、口をぽかんと開ける。

「あ、ありがとう……?」

「だから、その……付き合ってください!」

 その告白に、言葉が詰まる。そもそも、この人の名前、ど忘れした。流石に同級生だから、顔ぐらいは見覚えあるけど、誰だっけ。

「えっと……そう、だな。俺のどこが好きなの?」

 まず一番最初に出てくる言葉はそれだった。なんて答えたらいいかわからなかったから。別に目の前の彼女の告白を断る理由はないけど、恋愛的に意識したことはなかったから。

「いっつも明るくて、優しくて、頼りになるところ」

 そこまで聞いて、あ、断ろうと思った。彼女に見えている俺は、俺じゃないから。

「ご……」

「それと、ひたむきなところ」

 その言葉に、吐きかけた自分の言葉を飲み込む。

「え……?」

「海月くんの、ギターを見つめる目とか、曲を作っている時の、周りを全く見ない感じが好きなの。本当に、音楽を愛しているような感じがして、すごくかっこよくて。それに、海月くんの曲調、ネギマさんのに似てるよね?私、ネギマさんの曲好きだから、それにも惹かれて……」

 長々と自分の好きなところを語っていく同級生に、胸が高鳴る。ここまで想われているとは思ってなかった。自然と、笑みが溢れてしまう。

「わかった。付き合おう」

 気づけば、そう返事をしていた。彼女がネギマさんの名前を出した瞬間に、頭のどこかが熱くなった。

 彼女の名前は思い出せない。けれど、そんなことはどうでもよかった。

 俺を“ネギマに似ている”と言ってくれた。

 その言葉だけが、全てだった。

「ひたむき、か」

 無事に彼女と付き合って、家に帰り、ベッドの上で天井を見つめながら、小さく呟く。俺は、彼女の言葉に、昔の失恋を思い出した。

 11年前の、初恋を。


 ◇

 

 「海月くんって、なんか怖くない?」

 自分が、普通じゃないことに気づいたのは、小学三年生の頃の、1人の女子の陰口からだった。

 その女子の名前は佐々木可奈ささきかな。活発で、テストの点も良くて、どんな人とも仲良くできる。主人公のように輝く女の子だった。

 俺は彼女が好きだった。本当に、それだけだった。

 俺は、好きな人に意地悪をしないし、ちゃんと好きな人には好きと伝える人間だった。

「可奈ちゃんが好きです!僕のお嫁さんになってください!」

 自分の恋心を自覚して、すぐに告白をした。ランドセルを背負って歩く、帰りの通学路で。

 彼女はしばらく呆然として、すぐに目を伏せた。

「ありがとう、でも、ごめんね」

 俺の初恋は、見事に散った。でも、それでも諦められなかった。いつか、振り向いてもらえると願って、ひたすら彼女にアプローチをした。

 毎朝誰よりも早く学校に来て、登校してきた彼女に「おはよう」と挨拶をした。優しく挨拶を返してくれる彼女に、俺はいつも胸を高鳴らせていた。

 その日、彼女が風邪で休んだだけで、一日中落ち着かなかった。

 翌月の彼女の誕生日、手紙を書いて彼女の下駄箱に入れた。

『大好きな可奈ちゃんへ。お誕生日おめでとう。素敵な一年にしてね。海月より』

 それだけの、短い手紙だった。

「ねぇ、海月くんから手紙もらったんだけど」

「えぇ〜?なにそれラブレター?」

「気持ちは嬉しいけど、なんか、怖くない?」

 彼女たちはその会話を、聞かれないようにヒソヒソと話していたつもりだったんだろうけど、俺の耳には、はっきりと届いてしまった。


 ◇

 

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