第47話不登校

 しかし、嫌な予感というのは的中するもので、その日は突然訪れた。

 何年か経過して、娘が中学3年生にあがった春の日のことだった。

 いつもなら自分で起きて、朝食の支度をしていた娘が、リビングにすら降りてきていない。

「どうした?具合でも悪いのか?」

「……学校行きたくない」

 部屋の中から、娘の声が聞こえる。体調は大丈夫だが、なんとなく行きたくないらしい。

「そっか。朝ごはん作ったら俺は仕事に行くから、お腹空いてるなら食べるんだぞ」

 その言葉には返事はなかったが、俺はそのまま仕事に向かった。

 結局その日は、娘と顔を合わせることはできなかった。

「……ねぇ、あの子、どうしたの?」

 その日の深夜、娘が寝静まった頃に、妻が話を切り出した。今にも泣きそうなほど、声が震えていた。

「……わからない。でも、そっとしておこう。そんな日もあるさ。あの子は今までいい子すぎるぐらいだったし」

 俺がそういうと、妻はまだ納得いかないという様子だったが、やがて静かに頷いた。

 でも、娘の身に何が起きたのか、気にならないということはなかった。つい最近まで、普通に学校に行って、普通に帰ってきていた。学校での話も、たびたびしてくれていた。

 ピアノも相変わらず大好きで、レッスンの時は一際嬉しそうにしていたし、家で練習している時は、いきいきしていた。

 学校には通わなくても、ピアノの教室だけは必ず行こうとした。外に出てくれるだけでも嬉しいので、きちんと送迎をしてあげた。

 でも、学校に入っていないのに習い事だけ行く後ろめたさがあるのか、娘は、俺たちがいる時はピアノの練習をしなくなった。それでもたびたび行われるコンクールで、娘の演奏を聴いていると、日々練習を行っていることは一目瞭然だった。きっと、俺たちが仕事をしている間にこっそり弾いているんだろう。それが娘なりの気遣いだというのなら、知らないふりをするのがいいと思った。

 毎日、担任の先生の連絡をするたびに、心の中は焦りが募っていた。このまま、ずっと引きこもってしまったら、自分はどう対処したらいいんだろう。

「……お父さん。潮さんがまた学校に通える目処が立ったら、その時に連絡をください」

 学校に連絡をし始めて、数週間が経った頃、担任の先生にそう告げられた。心臓が、大きく跳ねる。

「……はい」

 それだけ呟いて、電話を切った。

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