第37話恋
「夜食、作ったから食べてね。それと、私は、海月くんが適当に音楽作ってないの、わかってるから。本気で、ネギマさんを尊敬して、頑張ってるの、誰よりもそばで見てきたから。」
優しくはにかむ彼女に、俺は目を見開いた。初めて、彼女に心が動いた。……気がした。俺を認めて、理解してくれる彼女に、恋をした。
「……ありがとう、そういう優しいところ、好きだよ」
そう言って、彼女の首に片手を回して、キスをする。初めて、彼女にちゃんと心から愛の言葉を口にした。
あの炎上騒ぎをきっかけに、俺の知名度はどんどん上がっていった。インターネット上だけではなく、学生時代の同級生や、会社の人たちにまで、俺がクラゲだと知れ渡った。
「おぉい、クラゲくん?君、有名人じゃないか。」
同僚に肩を組まれ、思わず苦笑する。
「はは、そんなんじゃないですよ……」
「いやいや、もうネットは君の話題で持ちきりだよ?認めろって〜」
そんな同僚や、会社の人たちをうまく受け流しながら、日々仕事をこなしていく。多少の面倒ごとは増えたけれど、それでも今まで通りの生活が続いていった。
ネット上では、「ネギマ先生のパクリ」というレッテルは絶えず貼り付けられていた。それでも、ほんの一歩でも、あの人に近づけているのだと思えば、そんなレッテルもただの賞賛にしか思えなかった。
いつも通り、家に帰ると、エプロン姿の彼女が、キッチンから出迎えてくれる。
「おかえり!」
「ただいま」
迷わずに自分の方へと駆けてくれる彼女を、両手を広げて受け止める。彼女に恋をして、少しだけ、その温度を感じるようになった。温かい体温、柔らかい体の感触、鼻をくすぐる柔軟剤の匂い。全てが、心地よかった。
「今日の夕飯は煮込みハンバーグだよ」
「やった、今日ハンバーグ食べたかったんだ」
そんな何気ない会話が、ただ暖かかった。
そしてある冬の夜、俺は仕事帰りに彼女の会社まで迎えに行った。
彼女は俺を見つけるなり、嬉しそうに駆け寄って、俺の胸に飛び込んでくる。柔らかい彼女の髪を撫でてあげると、気持ちよさそうに目を細めていた。
そして、しばらく一緒に手を繋いで、夜道を一緒にデートする。
予約していたレストランで、一緒に食事をして、他愛もない会話を交わす。
レストランを出て、また手を繋いで帰路につく。
しばらく歩いたところで、足を止める。いきなり足を止められて、彼女は驚いたようにこちらを振り向いた。
「どうしたの?」
「……あの」
言葉が、喉の奥で絡まっているみたいだ。それでも、絞り出すように話す。
「結婚しよう」
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