第32話後悔

 あの日、少女が泣きじゃくっていた動画を見た日から、ちゃんと動いていればよかった。もっとちゃんと励ませばよかった。わがままを言ってでも、死なないでと叫ぶべきだった。

 もっと早く、救えばよかった。

 俺は、心のどこかで安心してしまっていたんだ。先生が病気だと知っても、病院に行っていないと本人が言っていても、まだ生きているから大丈夫だって、思ってしまっていた。

 病院には、いつか行ってくれるって、勝手に思い込んでいた。本気で死ぬなんて、思っていなかった。俺は、どこまでも浅はかだった。死にたいと嘆く人間でありながら、死を、どこか遠くの存在だと思っていた。

「まだ、先生は生きてる」

 往生際悪く、まだそんなことを呟いてしまう。だって、先生が死んだという確実な証拠はない。決めつけちゃいけない。大丈夫、まだ救える。救えなきゃ、困る。

 俺は、あの人の音に近づきながら、あの人の存在には触れない。知りたい音だけ知って、知りたくない事実には蓋をする。俺の神様は、まだどこかで息をしている。それが今は、たまたま俺の見えないところにいるだけ。

 そう思い込みながら、俺はひたすらギターを弾いた。

 気づけば空は暗くなっていた。急いで家に帰って、ベッドに倒れ込む。昼に食べすぎたのか、あまり食欲は湧かなかった。

 そうして俺の専門学校生活が幕をあけた。平日はバイトをして、休日は音楽制作。狭いアパートでギターは弾けないので、近所の公園のベンチか、カラオケに入って、ひたすら曲を作った。

 時折同じ学科の人たちと遊んだりして、うまく立ち回っていた。

 正直、授業は感動の連続だった。学ぶ技法のほとんどが、ネギマ先生が使う音。明確な知識として、あの人の音を理解できる喜びに、思わず小躍りしてしまいそうになった。

 先生は、学んだことをきちんと自分に落とし込む、生真面目な生徒だったんだろうか。それとも、学んだことをすぐに使いたがる、好奇心旺盛な人だったんだろうか。どちらにせよ、あの人のわずかな内面を見られたのが、どこか嬉しかった。

 そんな感動に浸りながら日々を過ごしていると、上半期作品講評会という、今まで学んだことを活かす場に直面した。

 みんなそれぞれ、自分なりの音を作っている。その表情は、とても真剣なものだった。もちろん、俺も例外ではない。

 あの人の曲を、ひたすら意識する。極限まで寄せながら、オリジナルを作る。あの人が新曲を出したかと見まごうような、そんな作品を目指した。

 毎日のようにギターを弾いて、他の楽器はパソコンで打ち込んでいく。そして完成した曲を、提出した。

 一週間後、講評結果が通知される。

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