第28話一目惚れ

 恐る恐る中身を取り出すと、中には2枚の紙。一枚は、【AO入試制度出願認定通知】と大きく書かれ、赤い判が押された紙。もう一枚の紙は、本出願の手続きの案内だった。

「あ、やった、ぁ……」

 安堵から、情けない声を漏らし、崩れ落ちる。もちろんまだ油断はできないけれど、まずは安心した。

 さっそく両親に結果を伝える。

「おめでとう!今夜は焼肉だな!」

「本出願の準備、明日しましょうね」

 母と父の言葉にはそれぞれ頷いて、その日の晩は少し高めの焼肉屋に行った。食べ放題のメニューを頼み、大好物の牛タンを頬張る。

「卒業するまで音楽は作るのか?」

「うん、ちょっと、楽器とか買おうかなって」

「お金はあるの?」

「バイト代貯めてたからさ」

 他愛もない会話を交わしながら、家族で焼肉を頬張る。もちろん作曲家を目指すつもりではいるけれど、きちんと両親を心配させないようにしたいと思った。

 翌日の日曜日、俺は父にお願いして近所の楽器屋に向かった。ずらりと並ぶギターやドラム、ピアノを見回して、思わず息を呑む。この中のどれかが、俺の相棒になるかもしれない。そう思うと、興奮が抑えきれなかった。

「いらっしゃいませ。本日はいかがなさいましたか?」

 1人の店員さんがこちらに歩いてきて、朗らかな笑みを浮かべる。

「あぁ、ギターが欲しくて。おすすめはありますか?」

「ギターでしたらこちらのコーナーになります。どういった種類のギターをご希望されますか?」

「アコースティックギターがいいです」

 あまり音楽に対する知識はない。けれど、ネギマ先生が数年前、つぶやきでアコギの音は自分で弾いて曲に入れていると言っていた。だから、自分もアコギが欲しくなった。安直な理由かもしれないが、それが本心なのだ。

「ご予算はいくらぐらいでしょうか?」

「できれば6万以内が理想ですけど、最大10万までなら出せます」

 そう言うと、店員さんは1つ頷いて、数本のアコースティックギターを持ってくる。

「どれに致しましょ……」

「それで」

 店員さんが言い終わるよりも先に、即答で1つのギターを指差した。店員さんも、父親も、驚いたように目を見開いている。

「い、勢いがあるのはいいですが、まずは一度試奏されてからの方が……」

「そうだぞ海月。別に時間はあるんだから、慌てて決めなくても」

「どうしてもこれがいい。絶対後悔しないから」

 そう言って、その即決したギターを凝視する。深い青色から、中心にいくにつれて、淡い水色になっていく。その美しいグラデーションに、思わず目を奪われた。

「眠る海……」

 無意識に俺は、そんなことを呟いていた。ギターの色合いは、ネギマ先生が初めて配信したシングル、「眠る海」によく似ていた。きっと偶然なんだろうけど、俺には、どうしても運命としか思えなかった。

 一応試奏もさせては貰ったけれど、完全に一目惚れしてしまった俺には、あのギターが1番いい音を出しているようにしか聞こえなかった。

 家に帰って、さっそく軽く弾いてみる。

 ネットで弾き方を調べながら、見よう見まねで弦を押さえて、指で弾く。しばらくそうしていると、段々と指がジンジンと痛みだしてきた。

 ヒリヒリとする指を見つめながら、一度ネットを閉じて、今度はスマホのカメラを起動する。

 録画ボタンを押して、ひたすらギターを弾いてみた。そして、五分ほど手当たり次第に弾いてみて、ようやく録画を終了する。

 俺は、それを一切編集せずに、Me tubeに載せた。もちろん、ある程度カメラを伏せて、窓の外や、自分の顔が映らないように配慮して。元々見る専に使っていたアカウントを、そのまま使う。

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