少年「親方、女の子が降ってきた!」 親方「量が尋常じゃねぇええ!」

@tadanohito123

第1話「青い星みぃつけた♡」

太陽系に近づく無数の光の束が、静かに、しかし確実に地球へ向かっていた。


流星か?

はたまた巨大隕石の群れか?


――いや、それは彼女たちが操舵する、光の船団だった。


宇宙の静寂を裂くように、観測室に、やけに明るい少女の声が弾ける。


「みぃつけたぁ♡」


薄桃色の髪と、触角みたいに揺れるアホ毛がトレードマーク。

ルルナ・シュガーポップの一言が観測ログに記録された瞬間、巨大ホログラムに青い惑星がふわりと浮かび上がった。


長い長い旅路の果て――

暗黒の宇宙を何千年も渡り歩き、ようやく辿り着いた“生きている星”。


青い大気。

白いうねりの雲。

緑の大地。

夜側には宝石のような人工光。


どれも、彼女たちの胸を締めつけるほど美しかった。


そこへ、黒髪を揺らして近づく影があった。


「なにが“みぃつけた”だ、このバカ! 浮かれるなって何度言えばわかる!!」


鋭い怒声とともに現れたのは、奉仕種族の隊長格――セイラ・カーン。


「いったぁ~いっ! ひどいですよチーフ~♡」


「ひどいのはお前の頭だ! 観測記録、報告前に叫ぶなって何度言わせるんだ!」


いつものように、観測室はすぐに騒ぎの渦へと変わった。

だが――その姿は、まだ誰にも見えない。

記録映像には光に包まれたシルエットだけが映り、形も輪郭もぼんやりと揺らいでいる。

声だけが、やけに生き生きと響いていた。


「でもチーフぅ~、今回はほんとに綺麗な星ですよ♡ 巨大トカゲもいないし、虫惑星でもないし~!」


「そんなもん誰も確認してないだろ!前回も“直感です♡”って降下して大蜥蜴の巣だっただろ!お前の直感なんか信用できるか!」


「ひどぉい♡」


そこへ扉が静かに開き、落ち着いた声が流れ込む。


「まあまあセイラさん、久しぶりの生命体のいそうな星が見つかったのですから、そんなに怒らないであげてください」


落ち着いた声とともに、静かに扉が開いた。

銀髪の優しい微笑みを浮かべたアリス・フェルナンデスと、

銀髪ウェーブの“おネエ系アンドロイド”A-Σ(アーシグマ)が入ってきた。


銀の髪は柔らかく波打ち、どこか頼れる“お姉さん”の雰囲気をまとっている。

だが、そのアンドロイドが発した声は、意外にも低く響く男の声だった。


「相変わらず騒がしいわねぇ、あんたたちは~。報告手順はちゃんと守りなさいよ~?」


「あっ、A-Σ(アーシグマ)先輩♡」


「あらやだ、“先輩”とかやめてよ、くすぐったいじゃない。私はただの調整役なんだから~」


セイラはすぐにアーシグマへ命令する。


「丁度良いところに来た。すぐ地球の生命サーチを――」


「は~い、おまかせ~」


アーシグマは軽い仕草でモニター前に進み、ホログラムの地球を見つめた。

その瞳――人工虹彩が、ほんの少しだけ懐かしそうに細められる。


「……青い星。人類文明もあるのね。ふふ、やっと出会えたってわけ」


「ねっ、ねっ、今回こそ“運命の星”なんですよ!!」とルルナ。


セイラはため息をつきながらも、


「……珍しくお前のまぐれが当たったか」


「まぐれじゃないです、直感です♡」


また言い争いが始まり、アリスが必死に宥める。


アーシグマはその様子を見て楽しげに肩を揺らす。


「はいはい、フラグ立てないの。次こそ平和に行きましょ~。前みたいに惑星ぜんぶ虫だったとか、もう懲り懲りよ」


だが――。


セイラが「ではこの星の大気と――」と言い終える前に。


すでに遅かった。


観測窓の外では、光の船団がゆっくりと姿勢を変えていく。

数百、いや数千の船が隊列を組み、整然と地球を見下ろしている。

艦橋からは乗員たちの期待と緊張が混じった気配が伝わってくる。


「全艦、降下準備完了しましたーっ♡」


「ちょっと、早いってば! まだ報告も――」


「出撃ぃぃぃ~~~♡♡♡」


「おい!! 勝手に降下始めるな!!」


セイラの怒号もむなしく、艦隊全体が滑るように軌道を外れ、地球への降下姿勢へ移行する。

青い星を背景に、光の尾が無数に尾を引き、夜空へ向かって弧を描く。


「はぁ……もう中止もできませんし……このまま行きましょう」


アリスは両手を胸の前で組み、小さく祈るように目を閉じた。


観測室の通信網が一斉に弾けるような歓声で満たされた。

“見つけた”“行ける”“ついにだ”“新しい家だ”

長い飢餓と喪失の旅を続けてきた少女たちの声は、。

喜びとも安堵ともつかぬ声が飛び交い、空気そのものが震えているようだった。


アーシグマは額に手を当て、深いため息をひとつ。


「まったく……だから若い子は嫌なのよ。せめて報告してから騒ぎなさいっての……。」


だが口調とは裏腹に、その横顔にはどこか柔らかな微笑が浮かんでいた。


セイラは天を仰ぎ、アリスは目を閉じて祈り、

ルルナたち若い奉仕種族は歓声を上げる。


――この青い星で、すべてが変わるかもしれない。


「降下座標、確定♡」

「愛をこめて突入しますっ♡」


「やめろ、その言い方は誤解を招く!!」


セイラの叫びは、もう誰にも届いていなかった。


艦隊は光の矢となり、同時に地球へ滑り込んでいく。

大気圏の境界で船体が輝き、流星のような尾が何千本も夜空を染める。

地球の観測機器が一斉に騒ぎ出し、各国の危機センターは混乱に包まれていく――それが後に、“人類史最大の出会い”と呼ばれる事件の始まりである。


そんなことを知る者は、まだ誰もいない。


アーシグマはその光景を見つめながら、ぽつりと呟いた。


「……青い星。さて、どんな人たちが待ってるのかしらね。」


そのひと言を合図にしたかのように、船団は一斉に大気を切り裂き、

人類史上最大の“出会い”へ向けて突入していった。


――それが後に、地球全体を揺るがす大事件の幕開けとなるとも知らずに。

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