第22話 遊び人連続殺人事件⑫


「いや、待ってくださいよ。なんで俺が犯人なんですか」


 自分が犯人と言われ、葛飾が慌てて言う。


「では、証拠を見せましょうか。矢板が左利きの人物に刺されたのなら、当然犯人も左利きであるべきですね」


「まあ、そうですね。でも俺は右利きですよ」


 葛飾はうなずく。


「人の前ではそうなんでしょう」


「え、どういうことですか」


「あなたの高校時代の写真を豊島さんに見せてもらいました。この写真の中であなたは左手で弁当を食べていますね」


 小手川が持っている、高校時代の何気ない日常を写した写真。そこには左手で弁当を食べる葛飾の姿が映っていた。


「貴方のような左利きの人間は親に利き手を矯正されることが多いです。でもあんたは親の言うことをほいそれと聞くような人間でもないでしょう。でも、貴方はこの矯正のおかげで人前で右手を利き手に近い精度で使うことが出来るようになったんですね」


「もし、そうなら。金野の時はどうなる。その時俺はゲームセンターにいるでしょう」


「いや、ですから、矢板を殺したのがあんたで、金野を殺したのは別の人物ですよ。だから、貴方は犯人ではありません。それにどうせあなたはパチンコ屋にいて、アリバイは証明できるでしょうから」


 小手川はとりなして言う。


「それに矢板の現場周辺にあなたの姿が映っています。もう言い逃れできないでしょう」


「もう、隠しようがないか。そうだよ、俺があの矢板の馬鹿を葬ったんだ」


「動機は麻薬のことですか」


「まあな、あの野郎。高校時代の大暴れにも構わず。次には麻薬に手を出しやがったんです。よくわからない組織にも入って、でも結果になったのは」


 葛飾は少し貯めてから言った。


「俺のゲームセンターで大麻を売りさばくと言われたときですかね」


 その後、葛飾は自分の過去を語り始めた。


「俺の母親はね、簡単に言えば最低の親でした。父が死んだショックから大麻に手を出し始めてついに捕まりました。今も後遺症に苦しんでいますよ。全ての原因は麻薬のせいだ。あいつはそのことを知っていて俺にそんな話を持ち掛けてきたんです。許せないでしょう」


「でも、貴方は金野を殺さなかった。その理由はやはり」


「ああ、もうわかってるんでしょう。あいつを殺したのは金野敬一郎、金野の父親ですね。あの人が金野を殺した。動機は息子がついに麻薬の売買に手を出したと知ったからだそうです。俺はあの人から電話でそう伝えられました。まあ、俺が殺していたところでしたが」


「で、矢板を殺した原因は」


「金野が殺された後、俺があのアパートに呼ばれました。あの男は俺が金野を殺したと思っていたみたいで、慌てて俺が自分のアリバイを伝えたら、納得してくれましたが、うちの店で売るという計画はまだ残っていたみたいで」


「それで、殺してしまったんですね」


「俺はもう麻薬になんて片時も関わりたくなかった。俺はその力に突き動かされたんです」


「まあ、麻薬は売るもの以外のすべての人生を壊すと言います。難しい問題です。恐らくあの組織はこの程度ではまだ痛くもかゆくもないだろう。それだけ大きな組織だ」


 小手川は残念そうに述べる。


「でも、決して俺たちはそこへの追及を諦めたりしない。それが俺ら警察のいる意味だ」


 そう言って、小手川は葛飾の手を取り手錠をかけ、家の外に連れ出した。

 葛飾の目には自分の将来に希望を見出したか絶望したか涙が浮かんでいた。

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小手川進警部の事件簿 UMA未確認党 @uma-mikakunin

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