第21話 遊び人連続殺人事件⑪
「監視カメラを照合した結果、あの時間に現場近くのアパートにいた人物がいました」
そう、十橋が言うと捜査本部がざわめいた。
「で、どこの誰ですか。それは」
そう、大倉が詰めかける。
「北俊太です。死亡推定時刻より少し前に被害者宅の近くで牛丼を食べていました」
「そうかあ、北俊太が矢板を殺したか。管理官配備を」
そう、大倉が言うと小手川が
「大倉、いつからその目は節穴になった?」
「え、小手川さん。どういうことですか」
そう言って近づいてくる。
小手川はその腹に向かってナイフを刺す……ふりをした。
「大倉、よく腹を見てみろ。どっちにナイフが刺さってる?」
「左腹に刺さってますね。あっ」
そう、大倉は何かに気付いた様子になった。
それに追って宮代が
「そうよ、犯人は相手を刺すとき自分の聞き手を使う必要があるわ。今回の矢板の死体には右腹にナイフが刺さっていた。つまり、犯人は左利きよ」
大倉が監視カメラの映像をよく見てみると、北は右手に箸をもって美味しそうに牛丼を食べていた。
「げ、つまり彼は犯人ではないというんですか?宮代さん」
「まあね、現場にいたのは気になるけど、矢板を殺害したわけではないわね。とりわけ容疑者の中には左利きに該当する人物が一人だけいるのよ」
そう言って、宮代は4人の監視カメラを見せる。
「まず、葛飾ね。彼はゲームセンターで右でゲームをプレイしているわ。つまり犯人ではない。次は、荒川ですね。右手でシャンパンを注いでいる。豊島は弁当を右手で食べているわ」
「つまり、犯人はこの中にいないのか」
「まあ、その可能性が一番高いわね」
そう、宮代が言い切ったとき、後ろから
「いや、そうじゃない。犯人はもうあの人だとわかっている」
翌日の昼、その人物は家でくつろいでいた。
もう、するべきことはすべてやった。
これで、俺は何も恐れるものはない。
そんな時、玄関のチャイムが鳴った。
「どうしましたか、というかさっきの刑事さんじゃないですか」
そういう大倉の後ろから小手川が出てきた。
「葛飾大和さん。私の推理が出来上がったので少し聞いていただけませんか」
「え、まあいいですけど」
「そうですか、では家に入らせていただきます」
小手川はそう言って家に入っていった。
「で、推理って何ですか」
「まあまあ、落ち着いてくださいよ」
葛飾の家なのに小手川が主人のような振る舞いだ。
「今回、私は大きな誤解をしていました。金野を殺害した人物と矢板を殺害した人物が同一であると」
「そうなんですか。俺はてっきり両方同一人物かと思ってました」
葛飾がそう言ったことに小手川が食いつく。
「へえ、どうして同一人物の犯行だというんですか」
「え、だって知人同士が連続して殺されたんでしょう」
「え、なんで知人だってわかるんですか?金野さんと矢板さんにどんな関連があるというんです?悪いですが、この県内殺人事件なんていくらでも起こってますよ。それを全部関連させるんですか」
「なんですか、誘導尋問ですか。警察はそんなことするんですね」
「まあ、今のは誘導尋問になってしまったことは謝罪しましょう。でも、貴方が怪しいことは確かです」
「いや、何でですか」
「2番目に矢板を刺した犯人は左利きでした。ナイフが右腹に刺さっていたからです。しかし、金野は左腹に刺さっていたんですよ」
「え、そうなんですか」
「今、貴方は隠しようのない反応をしましたね。まあいいでしょう。さっきの誤解の話に戻ります。つまり、金野を殺した犯人はあなたではないということです」
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