第16話 遊び人連続殺人事件⑥
渦中の捜査4課では
「へっくしょい。誰だ俺の噂してる奴は」
坂巻光士郎捜査4課長は怒気を込めながら、近くの係長に言う。
「うちではだれもしていませんよ。4課長」
そう、部下にあっさりと言われ黙ってさっき来た書類に目を通す。
「ふーん、無職のもと不良がヤクの売人とはな。最近のこの町はどうなってんだ」
自分たち捜査4課がもっともこの署内で治安が悪いことは棚に上げ、外のことを気にしている坂巻に先ほど一課と話していた田崎が帰ってきた。
「坂巻課長、今帰りました」
「ああ、田崎かどうだった、あのゴリラ野郎の部下の様子は」
「まあ、頻繁に連絡するとは一応言いましたが。麻薬とコカインの区別もつかなそうです」
「そうか、そんなんでよく仕事できるな。まあいい、土井橋の奴と合同本部なんて作る羽目になるかもな」
組長のあだ名の通り、坂巻は一目見ればどちらがやくざかわからないような男だ。まあ、この調子で今まで何人もの輩の精神を砕いてきたのだが。
「まあいい、売人の目星はついてんのか」
そこで、部下の一人が言う。
「金野が通っていたキャバクラの防犯カメラより、スコーピオンズのメンバー矢板剛士だと思われます」
「ああ、スコーピオンズか、奴らも懲りないな。例の殺人もそいつらの誰かの仕業だろう」
「そうだとしたら、競争になりますね」
「はん、競争なんて言うな。俺が常に勝ち続ける」
そう、坂巻が意気込んだ時、彼がこの世で最も嫌悪しているものが来た。
「ほう、誰が勝ち続けるって?坂巻ぃ」
「土井橋じゃねえか。ここに何しに来た」
「何しに来たって、殺人事件の情報をトップ同士で共有するためだ。そうでなければわざわざお前みたいな堅物のところに来ないだろ」
「ほう、言ってくれるじゃねえか」
県警本部の中でもとりわけ気の短く仲の悪い二人の競演に周りがざわめき始めるが、当人は意外にも
「まあいい、売人は恐らくスコーピオンズだ。最近頭角を現してきたグループでな。海龍会をはじめ多くの暴力団と関係がある」
そう、坂巻は書類から目を離さないまま答える。
「そんなこと知っている。最近の麻薬がらみの事件は大半そこの名前が出てくるからな」
「麻薬だけじゃない。多くの違法セクシャルビデオや闇金、最近は詐欺の取り仕切りも始めたらしい。今の社会の裏を牛耳ろうとする組織だ」
「当然お前がいるうちに根絶したいわけだ」
「まあな、気の遠くなるような仕事だ。どうせ今回の男も元組織からは末端の末端で、上が誰かなんてわからないからな」
そう、坂巻がため息をつきながら言っていると、土井橋の背後から部下の声が聞こえてきた。
「坂巻課長、刑事部長がお呼びです」
「ああ、今行く」
坂巻はそう儀礼的に答えてから、また、土井橋の方に目を合わせながら。
「まあ、そういうわけだ、てめえはてめえの好きにやれ。だが、うちの領域には入ってくんなよ」
そう言って、鳥羽は刑事部長室へ歩き出した。
それに土井橋も続く。
「おい、てめえ何で付いてきてるんだ」
「俺も鳥羽刑事部長に呼ばれたから、ただ寄らせてもらった。それだけだ」
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