第13話 遊び人連続殺人事件③

 荒川瑞穂は高平町の高級マンションに住んでいるらしい。まあ、水商売だからそんなものか、榊原はよくわからないままエントランスに声をかけた。


「あの、荒川瑞穂さんをお願いします」


 通された部屋は豪華榊原、家具も高いもので統一され、客からもらったのか、数多くの時計やカバンが収納してある。戸棚においてあるカバンは榊原も欲しいものだったが、安月給の実家暮らしなので諦めた。確か50万は下らないはずだ。


「で、刑事さんが何の用?」


 荒川は金髪美人で背も高くていかにも水商売をしているようにみえる。


 随分と態度の悪い人だ、まあ榊原とは同い年か近い年齢だろうから、そうみられても仕方ないが。


「いや、金野康夫さんのことを聞きたいんです。貴方の番号が登録されていたので」


「ああ、あの男死んだんだってね。まあいいけど」


「いいって、あの人あなたの大切なお客さんでしょう」


「どこがよ、昔建設会社の親方が連れてきてからよく来るようになったけど。あの人は金がないから嫌いよ。まあ、建設会社を首になった後もちょくちょく来るようになったけど」


 金を持ってこない客はさほど重要でもないのか、不満そうに榊原に話す。


「ええ、お金ですか。まあ、でも、電話番号が登録されていたから。親しかったのでは」




「最初に無理やり交換させられたのよ。店長もあの男が有名な不良だから怖がって愛想よくふるまうようにきつく言われていたけれど。私はあいつが死んでせいせいできたわ」


 事実榊原もそう思っていた。金野康夫と言えばこの辺りでは有名なのだから。この町が地元である榊原は白帝高校にいた時、同じクラスの男子がカツアゲされたことを知っている。


「水商売も大変なんですね」


「まあね、世間からの評価も悪いけれど、これでも大変な仕事なのよ。たいして魅力のない人をほめちぎって」


 仕事の不満がたまっていたのだろう。荒川はぺらぺらと喋り始める。


「でも最近よくわからない人と来ていたわね。なんか、いい商売ができるって」


「どんな感じの人でしたか」


「真っ黒な服を着ていたけど、見たことある人じゃなかったわ。」




 葛飾大和が経営する遊戯場は現場の目と鼻の先にあった。


 大倉はそこの店員である葛飾に何とか話を聞くことが出来た。


「ああ、金野ねよく内に来ていたよ。でも、正直出入り禁止にするか悩んでいたんだ」


「出入り禁止ですか」


「うん、あいつはいつも朝から晩まで台の上で粘っているんだけど。出玉が悪いと機械や店員に当たり散らしたり、当たり台の客を無理やり追い出したりして迷惑していたんだ」


 大倉にはパチンコを打つ趣味はないが、仕事柄それがパチンコ好きに迷惑なことかということは知っている。


「そうなんですね。では、犯行時刻のアリバイは」


「この店と別にやっている、ゲームセンターにいたよ。データカードダスに不調が起こったっていうんでね」


「金野さんはどんな人だったんですか」


 豊島から彼の話を直接聞いていない大倉は尋ねる。


「正直言うけど、あまり褒められた奴じゃなかった。少しでも目を合わせるとすぐに殴り掛かってくる。それが女や子供でもだ。昔7歳ぐらいのガキが間違えてソフトクリームを当てただけで、ぼこぼこだよ。それで、重症だなんだの大騒ぎになって、結局あいつは停学する羽目になった」


「そういえば、そんなことがあったと警察で聞いた気がします」


 金野の本性を知り、大倉は身震いしながら答えた。


 7歳の小学生を殴るなんて、彼には仁義も何もないだろう。


 自分の知っているヤンキーでさえ、その程度の分別はあった。


「あいつは若気の至りや思春期の葛藤なんて言葉に甘えた猛獣なんだ。あいつが俺の携帯番号を入れていたのは金づるにするためさ。親から継いだ店だが儲かっているからね」


 そういえば、今日は土曜だがパチンコ台はどこも埋まっている。


「金野さんの他の交友関係はどうですか?豊島さんとか。荒川さんとか」


「ああ、豊島君は金野とよくやっていたよ。昔喧嘩に一緒に明け暮れたなあ」


 そう、親友のことを語ると次にキャバクラの話をし始めた。


「荒川ってあの金野のお気に入りのキャバクラ嬢でしょう。俺は全くいかないから知らないけど、だいたい人のおごりだったようですよ。まあ、だからあいつはお持ち帰り叶わないんですけど。まあ、いったい誰が出しているんですかね」


 葛飾は今不明なように言うと次に言い出した。


「でも、金を貸していたのは善意ではありませんよ。断ると殴られるから仕方なく」


 なら、キャバクラ代もその理由で出されたと考えるべきだろう。

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