第12話 遊び人連続殺人事件②


 翌朝、小手川は相棒の斯波と一緒に金野の実家に向かった。


 実家と紹介された家は一般的な一軒家だが、だいぶ汚いというか落書きが多すぎる。


「相当治安が悪いんですね。この辺り」


「まあ、近くが有名不良校ですから。若いころからここには何度足を運んだか」


 そう、斯波が言い、玄関のチャイムを鳴らした。


「はい、どちら様でしょうか」


 中から、弱弱しい声が聞こえた後、ドアから50代くらいの女性が顔を出した。


「あ、私こういうものでして。息子さんの金野康夫さんの事件について聞きたいんですが」


 そう、斯波が言った瞬間。


「うちはそんなやつは知らん。とっとと出て行ってくれ」


 奥から男の声がした。


「いや、お父さん。この人は警察ですし、話だけでも聞いてあげたらどうです」


 すると、どこどこと足音がして、中から厳格そうな男性が出てきた。頭こそ禿げ上がっているが、厳しそうな人だった。


 事前に集めた情報によると、父親は金野敬一郎と言って、秀峰大学で日本史を教えているらしいし、母親の方はそこで事務員をしていたという。


 この真面目そうな夫婦から何であんな人が生まれるのだろうと、十橋は不思議に思った。


 その男性は居間に二人を通すとこう切り出した。


「なんですか。あいつがまた何かやらかしたんですか。悪いですが私はあいつとはもう親子の縁を切りました。」


「いや、殺されたんですよ。昨夜刃物で刺されて」


 小手川は少し直接的すぎたと後悔していたが、男性の方は椅子の上で少しも驚きもせず。


「そうですか、いつかそんな日が来るんじゃないかと思っていましたよ」


「そんな日とはどういうことですか」


 あまりにも意外な反応に、小手川がその発言の真意を問う。


「刑事さんも分かっているでしょうが、あいつはどうしようもない不良ですよ。そりゃ高校のころは若気の至りだとか言ってまだ我慢していましたが、もう30近くにもなって。あんな甲斐性なしでは。どうせ、女かやくざとでも揉めて刺されたんでしょう」


「まあ、まだ動機すらつかめていないので、詳しくは言いかねますが、被害者はそんなに素行が悪かったんですか」


 十橋が両親に向かって尋ねる。


「そうですよ、酒やたばこは日常茶飯事。毎日夜遊びまでしていました。一か月に3回は高校に呼び出されていましたね」


 まあ、豊島から聴取していた時点で分かり切っていたことだが、やはりとんでもない暴れようだ。


「家の前の落書きを見たでしょう。あれ、息子とやりあった不良の嫌がらせですよ。最初こそ真面目に消していましたが、もう面倒になりまして」


 この顔の疲れ様から、親も大変だったのだと思う。


 ここで母が口をはさむ。


「一度は定職に就いたんだけどね」


「お母さん、その定職とは」


「まあ、建設会社の社員ですよ。これも知り合いのつてをたどってようやく入れてもらったっていうのに」


「なんで、辞めたんですか」


「建設会社の現場なんて不良崩れの人が多いでしょう。息子は高校時代暴れまわったせいで、あちこちの不良組織と因縁があるんです。それで、揉めて人を殴って懲戒免職になったそうです」


 そう、敬一郎が言っているのを見て、不良の就職も大変なのだと思った。

 これでは、敵が多いというのも納得できる気がする。




 十橋が思い出したように問う。


「豊島洋一郎という人は知っていますか」


「ああ、豊島君ね。息子とは1歳違いで近所でよく遊んでいましたよ。悪ガキでしたが今は真面目に働いているようですね」


 敬一郎は感心しながら言っている。


「息子さんは最近臨時収入があったそうですが」


「先ほど言ったように息子とはもう何年も連絡を取っていません。そんな話は聞きませんでしたよ」


 まあ、家を追い出したんだから仕方はないだろう。


 二人が金野の実家を後にすると小手川に電話がかかってきた。


「もしもし、榊原さんか」


「警部、被害者の携帯の最近の通話履歴を調べました。被害者は事件前後複数の人間と連絡を取っています。今から画像で送りますね」


 これで犯人が絞りやすくなった。


「了解。今から、捜査本部に戻る」




 捜査本部にて、榊原美咲巡査部長が連絡先を説明する。


「被害者は最近4名の人物と連絡を取っています。電話帳によって4人の身元が分かりました」


「一人目は豊島洋一郎、時間的にも彼が言っていた時間と一致するな」


 そう、本多が言う。


「二人目は荒川瑞穂、キャバクラの店員でした。三人目は葛飾大和、これも金野の不良仲間で今は遊戯場の店長をしているそうです。4人目が北俊太、彼は今フリーターです」


「では、この4人に分担して聴取しよう。何かわかるかもしれない」


 刑事たちは別々の場所に散っていった。

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