第10話 不良学生殺人事件⑩
「はっはっは、やはりいろいろ話し過ぎたようですね。そうですよ、私が水戸夏江と新崎洋輝を手に翔けたのさ」
寅井は大笑いして話し始める。
「しかし、どうして水戸夏江を殺害したのですか?この表を見る限りあなたは真面目で勤務態度もいいではないですか」
「私と夏江は恋愛関係だったんです。当然皆には内緒ですけど」
「そうだったんですか。つまり痴情のもつれということで」
本多が寅井の肩をつかんだまま言う。
「そんなに単純ではありませんよ。ある日夏江は妊娠しでしまったんです。一教師と生徒の間に子供が生まれるなんて許されないでしょう。しかし、彼女は自ら命を絶ってしまっていた。このことが公になれば、だれ一人得をしなくなる。私が職を追われることは仕方ないとしても死んでしまった夏江に申し訳が立ちません」
寅井は唇をかみしめながら言った。
「それをうまく壁の中に埋め隠したつもりだったんですが、新崎に見つかってしまいました」
「なるほど、それで新崎を殺害して死体を隠したわけだ」
「はい、その通りです。ただ、一つ誤算がありましてね」
「何ですか?」
「新崎を殺したときにあまりにも急だったことですよ。そしてそれがたまたま誰かに見られてしまっていてたら、私はもっと早く捕まるところでした。でも、幸いこの時間誰も見ていなかったので、何とかごまかすことができました」
「それは不幸中の幸いというやつですね」
「ええ、でも私は既に教員として失格です。生徒を妊娠させて、自殺され挙句の果てに何の罪もない生徒を手にかけてしまった」
寅井の目から涙が溢れ出す。
彼は泣いていた。
自分の犯してしまったことの大きさに打ちひしがれていたのだ。
しかし、彼ももう限界に来ていたようだ。
このまま限界を迎えたら、小手川のところに来てくれただろうか。いや、きっと自分が殺した生徒のもとに行くところだっただろう。そう思うと、小手川はほっとしたような気がした。
彼のことを心の底では心配していたらしい。
でもこれで安心して、自宅の高級枕で眠れる。
後は、所轄にすべて任せて、一課長に報告するだけだ。
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