第7話 不良学生殺人事件⑦

 その場に冷たい空気が流れる。


「いやいや、小手川さん冗談はいけませんよ。なんでそんな酷いことを言うんです」


 寅井は大慌てで言う。


「まあ、これだけではいけませんね。順を追って説明しましょう」


 そう言って、小手川は寅井の肩をつかむと説明した。


「まず、死体の置き場所ですが。私は大きな間違いをしていました」


「間違いですか?」


「ええ、私は必死こいて場所を探していて、大事なことに気付いていませんでした」


 小手川は呼吸を置くと言った。


「何故、死体を動かす必要があるのかを忘れていたのです」


 一堂に衝撃が走る。


「それは死体の発覚を恐れたからでしょう。時間がないと逃げ道がありませんから」


「まあ、そう言った理由もあることにはあるでしょう。しかし、こんな狭い校内を男一人担いで動くことの方がリスクが大きい。見つかればそれこそ言い逃れはできませんからね」


 小手川は一応寅井の意見も受け止める。


「死体の移動には恐らく、この台車を使ったんでしょう」


 斯波が土を運ぶための深みのある台車を持ってきて言う。これにブルーシートでもかぶせれば人一人は容易に隠せるだろう。


「権田先生が、感じた謎の一つがこの台車だそうです。台車は本来既定の場所に置くものだそうですが、何故か校舎近くにあったそうです。その時に死体を中に運んだのでしょう」


 小手川は台車を寅井に突き付けながらそう話す。


 すると、寅井は大笑いしていった。



「なるほど、確かにその方法なら死体を運べる。でも、別に私じゃなくてもできるでしょう」


「確かに、これであなたが犯人ですなんて腑抜けた真似をしたら、警察の威信にかかわるでしょう。では、次の話をしましょうか。それならいったいなぜ死体を化学室に隠す必要があるのでしょうか。ここで根津先生は容疑者から外れます。なぜなら、死体を化学室に隠した場合真っ先に自分が疑われるのですから。実際そうでしたしね」


「しかし、あえてそうした可能性も」


「事実彼にはアリバイがあります。それに彼は血も見られない臆病者だそうです」


 小手川は根津が右手で文字を書いている様子を見てそう感じた。




「次いで、権田先生も違うでしょう。なぜなら、事件現場に行くのに激怒していくのは明らかにおかしいからです。それにもう一つ問題が……」


「え、問題ですか?」


「よく聞くでしょう。部活で激怒して出ていったとき生徒はよく追いかけて謝罪するということを。権田先生はそのいつ来るか分からない謝罪を待っていたんです。あまりにも時間確保に不適切です」


 確かにその通りではあるだろう。権田は謝罪を待たなければいけないし、激怒してまで時間確保するのはとんでもなく不自然だ。


「また、三守先生も同様です。殺害をするときに国語の研究室にいたようですが、恐らくにも彼女の細腕では人を運ぶのは無理です。それに彼女は授業が終わってからずっと国語科研究室にいて、そのあと帰ってしまったそうです。監視カメラにも映っていますし容疑者ではありませんよ」


「それなら、私もそうだ。私を犯人とする証拠はあるんですか?」


 寅井はそう大慌てで言う。


「だから、それを今から示すんですよ。来てください」

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